アンチ・シリコンジャーナリズム それってデータの裏付けあるの? 前編「存在しない『炎上』の作り方」 | ScanNetSecurity
2024.06.20(木)

アンチ・シリコンジャーナリズム それってデータの裏付けあるの? 前編「存在しない『炎上』の作り方」

十分な調査も行わず、あおり見出しをつけて、ひたすら新聞などの部数を伸ばすことに専念する逆の意味で見上げた報道姿勢は、かつて「イエロージャーナリズム」と呼ばれました。

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アンチ・シリコンジャーナリズム それってデータの裏付けあるの? 前編「存在しない『炎上』の作り方」
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 十分な調査も行わず、あおり見出しをつけて、ひたすら新聞などの部数を伸ばすことに専念する逆の意味で見上げた報道姿勢は、かつて「イエロージャーナリズム」と呼ばれました。

 2020 年代の日本における不倫報道のように、1900 年代のニューヨークでは、新聞同士が部数争いをする過程で、センセーショナルな犯罪報道が主要コンテンツとして扱われ、イエロージャーナリズムが成長しました。

 イエロージャーナリズムの覇を競い合った紳士達とその紙名は、ジョセフ・ピュリッツァーが所有する「New York World」紙と、映画「市民ケーン」のモデルともなったウィリアム・ランドルフ・ハーストが所有する「New York Journal」紙。記事を書くために、法律スレスレどころかガッツリ抵触する調査報道を連発、ニューヨーク市民の民度を下げることに貢献しました。

 ノーベル賞は、最も人類の命を奪った技術のひとつことダイナマイトの発明者によって創設されましたが、現代、ジャーナリストに与えられる世界で最も権威と栄誉のある賞とされているピュリッツァー賞が、ジョセフ・ピュリッツァーの名が冠され、彼のイエロージャーナリズムへの深い反省が創設のきっかけとなったことは考えさせられる事実です。

 監視資本主義時代、「コードが読める/書けるジャーナリスト」として活躍する作家の一田和樹氏は、SNS を舞台として繰り広げられる世論の誘導や操作を、イエロージャーナリズムの SNS 版「シリコンジャーナリズム」と呼び、警鐘を鳴らしています。かつてメディアを所有し情報発信をすることができる人は限られていました。しかし現代、ノリノリだった時代のピュリッツァーやハーストに負けず劣らずの発信力を一般市民が手にし、その力を謳歌しています。

 今回 Scan PREMIUM 会員に向け、前後編 2 回でお届けするこの特別寄稿では、シリコンジャーナリズムの解説にとどまらず、フリー統計ソフト「R」を用いてツイートの分析を行い、誘導と操作によって歪められたデータの中から事実を見つけ出す具体的方法を伝授する、いわば「シリコンジャーナリズム・ハック・マニュアル」ともなっています。

アンチ・シリコンジャーナリズム それってデータの裏付けあるの? 前編「存在しない『炎上』の作り方」
● SNS 時代の「シリコンジャーナリズム」

 「非実在型炎上」という言葉をご存じだろうか? 実際には炎上していないのに、「炎上している」という記事などが書かれ、そこからあたかも炎上があったかのように擁護や議論が始まる現象である。筆者の知る範囲では最初に指摘されたキズナアイの時であり、その後も継続して現れ続けた。全く実態がないわけではないが、実態とはだいぶ乖離した情報であり、フィクションに近い。

・ 千田さんが「炎上している」と書いた時、キズナアイは「炎上」していたか?(2018年10月23日「データをいろいろ見てみる」)
https://shioshio3.hatenablog.com/entry/2018/10/23/044040

・ 「サザエさんは不謹慎」11人の批判を炎上につなげたマスメディア(2020年10月4日「Smart FLASH」)
https://smart-flash.jp/sociopolitics/117559

・ 2021年福島県沖地震でデマは桁違いに拡散したのか(2021年2月17日 鳥海不二夫「ヤフーニュース」)
https://news.yahoo.co.jp/byline/toriumifujio/20210217-00223002/

・ 福島県沖地震後にもっとも拡散した外国人関連ツイートは、ヘイトではなく安全情報だった(2021年3月2日 一田和樹「Newsweek日本版」)
https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/03/post-20.php

・ 「ウマ娘」の非実在型炎上をデータから見る(2021年3月11日 鳥海不二夫「ヤフーニュース」)
https://news.yahoo.co.jp/byline/toriumifujio/20210311-00226629/

 これらはほんの一部である。非実在炎上以外でもメディアでの扱いと事実が異なったり、ミスリードされていることは少なくない。一部はフェイクニュースと指摘されるが、そうならないものも多い。一部の「こたつ記事」もそうなってしまっている。

・ やめられぬ「こたつ記事」スポーツ紙が陥ったジレンマ(2020年12月19日 池上桃子「朝日新聞」)
https://www.asahi.com/articles/ASNDL76N5NDBUTIL056.html

・ 現役記者&メディア運営者も危惧…問題続出の「こたつ記事」とは?(2021年1月18日「TOKYO MX」)
https://s.mxtv.jp/tokyomxplus/mx/article/202101180650/detail/

  SNS 時代のイエロージャーナリズムのような動きがネットに広がっている。イエロージャーナリズムとは 19 世紀のアメリカで二つの新聞が扇情的な記事を掲載し、争っていたことを指す言葉である。非実在炎上などの非実在ニュースは、ネット時代であることをふまえ「シリコン・ジャーナリズム」とでも呼ぶべきかもしれない。

 本質的な対策は制度と発信者であるメディアの正常化だが、現在進行形でシリコン・ジャーナリズムに接している読者には今できる自衛策が必要だ。ファクトチェックも行われているが、シリコン・ジャーナリズムの量には追いつけない。また、ファクトチェックそのものの信憑性が疑わしいケースも出て来ている。

・ 政党がファクトチェック、成立する? 匿名投稿に反論も(2021年3月19日「朝日新聞」)
https://www.asahi.com/articles/ASP3M61MJP3JUTIL00P.html

 しかも本誌の読者の多くはサイバーセキュリティの「関係者」である。ただの読者ではいられないこともある。ベンダに勤務していたり、ユーザ企業でシステム関連の業務を担当していたり、行政機関で民間の指導にあたっていたりする方々は少なくない。正しい情報を知り、発信する責任を負っている方もいるだろう。

 信頼できるデータがあるならよいが、そうでない場合は自ら SNS などのデータを収集、確認しなけばならない。幸いに一部の SNS 各社はそのためのツールや環境を整え、提供している。今回は日本で愛好者の多いツイッターのデータを自分自身で手軽に確認する方法をご紹介したい。

《一田 和樹》

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