第31回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」 平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(17) ソフトウェア開発委託契約の成否をめぐる判例(商法512条)(3) | ScanNetSecurity
2024.04.28(日)

第31回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」 平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(17) ソフトウェア開発委託契約の成否をめぐる判例(商法512条)(3)

●41 東京地裁平成16年3月10日判決
平成12年(ワ)第20378号損害賠償請求事件(本訴事件)
平成13年(ワ)第1739号損害賠償等請求事件(反訴事件)

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●41 東京地裁平成16年3月10日判決
平成12年(ワ)第20378号損害賠償請求事件(本訴事件)
平成13年(ワ)第1739号損害賠償等請求事件(反訴事件)

この判決は、既にご説明しておりますので、要約だけご照会致します。

裁判所は、「被告は、システム開発の専門業者として、自らが有する高度の専門的知識と経験に基づき、本件電算システム開発契約の契約書等に従って、システムを構築し、段階的稼働の合意のとおりの納入期限までに、本件電算システムを完成させるべき債務を負っていたものであり、システム開発について専門的知識を有しない原告Aによって開発作業を阻害する行為がされることのないよう原告Aに働きかける義務(「プロジェクトマネージメント義務」という)を負っていた」とし、受注者の責任の一般論を述べました。

本件契約の内容について、「本件システム開発契約は、基本設計、詳細設計、開発、テスト、移行等、一連のシステム開発工程を実施し、本件電算システムを完成させることを目的とする契約であるから、事務の遂行を目的とする準委任契約ではなく、本件電算システム開発という仕事の完成を目的とする請負契約であるというべきである。」と、請負契約である旨の認定した上で、

「本件電算システム開発契約の契約書は、「委託業務の遂行に原告Aの協力が必要な場合、原告Aに対し協力を求めることができる。この協力の時期、方法等については、原告Aと被告が協議して定める。」旨定めており、原告Aが協力義務を負う旨を明記している。したがって、原告Aは、本件電算システムの開発過程において、資料等の提供その他本件電算システム開発のために必要な協力を被告から求められた場合、これに応じて必要な協力を行うべき契約上の義務(以下「協力義務」という)を負っていたというべきである。」と、発注者側に「協力義務」を認定しました。

しかしながら、「以上、検討したところによれば、原告Aは、被告から解決を求められた懸案事項を目標期限までに解決しないなど、適時適切な意思決定を行わなかった点において、適切な協力を行わなかったところがあるということができる。しかし、原告Aの機能の追加や変更の要求に関する被告の協力義務違反の主張については、原告Aが結果として本件基本設計書において想定されていた開発内容の追加、変更等をもたらす要求をした事実は認められるものの、そのことが原告Aの協力義務違反を構成するということはできず、被告の主張は理由がない。」と、一般論で述べた「協力義務」について、本件訴訟の原告については協力義務違反がないと判断しました。

すなわち、本件電算システムの開発作業が遅れ、段階的稼働の合意により延期したにもかかわらず、なお納入期限までに完成に至らなかったのは、原告Aと被告双方の不完全な履行、法改正その他に関する開発内容の追加、変更等が相まって生じた結果であり、いずれか一方の当事者が債務不履行責任を負うものではないと、原告・被告双方痛み分けの判断を行いました。

契約の解除について、「被告の債務不履行を理由とする原告Aの解除は、前記のとおり認められないものの、本件解除に至る交渉経緯等にかんがみれば、原告Aの本件解除には、いずれにしても本件電算システムの開発を取りやめて被告との契約関係を終了させる旨の意思の表明が含まれていたものと解される。また、被告は、反訴事件において、原告Aの解除の主張を民法641条の解除として援用する旨主張しているところ、その後の経過を含む弁論の全趣旨によれば、原告Aは被告の同援用を積極的に争わなかったものと認められる(いずれにせよ、本件解除により契約関係が終了しているとするものであり、債務不履行が認められなければ、現在でも契約関係が存続しているとするものとは解されない)。そうであれば、原告Aの解除は、民法641条の解除として有効であると解するのが相当である。」とし、民法の「請負」の条文に基づく解除を認定しました。

商法512条の適用について、本判決の判示内容の全文は以下のとおりです。

「被告は、商法512条(有償委任に基づく報酬請求権)も、上記損害賠償請求の根拠として指摘するが、前記認定のとおり、本件電算システム開発契約等は請負契約であるから、被告の主張は失当である。」

商法512条の条文は次のとおりです。

「(報酬請求権)
第五百十二条 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。」

東京地裁平成16年3月10日判決は、この条文から、「本件電算システム開発契約等は請負契約であるから、被告の主張は失当である。」と、商法512条が有償委任に基づく報酬請求権であり、請負契約には適用がないと限定解釈し、被告側の主張をばっさりと切り捨てています。

東京地裁判決の上記の判断は、商法512条の解釈について問題があるだけでなく、この点について十分な審理を行っているかも疑問があり、納得させるものではありません。

一方、大阪地裁平成14年8月29日判決「スーパー土木事件」では…

【執筆:弁護士・弁理士 日野修男】( nobuo.hino@nifty.com )
日野法律特許事務所 ( http://hino.moon.ne.jp/ )
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