クライムネットとe-Punishment ネット (2)治安維持装置の機能不全と非国家貨幣システム | ScanNetSecurity
2024.04.28(日)

クライムネットとe-Punishment ネット (2)治安維持装置の機能不全と非国家貨幣システム

「Facebook革命」が起きた時、みなさんはなにを感じただろうか? 「SNSが社会を変える」「これからは、ネットを通じて草の根や民意を反映できる社会になるかもしれない」そんな希望を抱いた方もいるだろう。

特集 コラム
「Facebook革命」が起きた時、みなさんはなにを感じただろうか? 「SNSが社会を変える」「これからは、ネットを通じて草の根や民意を反映できる社会になるかもしれない」そんな希望を抱いた方もいるだろう。

正直に言うと、私はとても怖かった。

メリットとデメリットは表裏一体である。ネットが社会に影響を与える仕組みとして効果的、機能的であり、ましてや革命にまで至る潜在力を持つとすれば、当然その逆もありうるのだ。そして、それが発生した時、エジプト革命を体制側が止められなかったように、既存の治安維持装置はその力の前に無力化するに違いない。

今回のロンドン暴動は、そんな私の考えを裏付けるものだった。ネットは、悪意を広げ、効果的な破壊活動のためのインフラとなったのだから。そして、その悪意の拡散は、予想していた通り、既存の治安維持装置のキャパシティを越えた。もはや、ネットを活用した犯罪に対して既存の治安維持装置は、有効な対抗手段を持っていないことが明らになったのである。

「ウソなのは、警察や刑法がいまでも有効に機能してるっていうイメージの方」

手前味噌で恐縮だが、これは私が原作を提供しているコミック「オーブンレンジは振り向かない」の主人公が言うセリフだ。とっくの昔に、既存の治安維持装置は、その機能を失っていた。問題は、いつ、どのようにしてそれが明らかになるかだったと思う。

しかし、私がこんなことを言っても、治安維持装置は正常に機能していると信じている人の方が恐らく多いだろうから、まだ明らかになっていないと言っていいのだろう。だから具体的な話をしよう。

1)ネットで組織化される人数は、簡単に治安維持装置のキャパシティを越える
治安維持装置のキャパとは、捜査、逮捕、拘留、起訴、裁判、収監の全てのキャパシティだ。このどれかが欠けても装置は健全に動かない。このことひとつをとっても、すでに多くの国の治安維持装置は機能を喪失している

2)治安維持装置が捜査しきれない、セキュアで迅速な連絡網が複数存在する
BlackBerryしかり、Facebookしかり、さまざまな便利なコミュニケーションツールがネット上には存在している。これらを駆使された場合、その傍受やチェックには莫大な労力が必要となり、事前に阻止することはきわめて困難となる

3)ネットは秘密裏に仲間を集めやすい
前項の通り存在するさまざまなツールによって、短時間で効率的に仲間を集めることが可能だ。ハッカーグループLulzSecのツイッターフォロワーは35万人を越えている

4)治安維持装置を支える人員は減り続けている
人口動態的に、治安維持装置やサービスに従事するベテランがどんどんリタイアし、治安維持装置の人数は減り続けている。全ての国というわけではないが、多くの先進国はこの問題に直面している。もちろん日本はこの傾向が顕著である

他にもたくさん理由はあるが、これくらいあげれば充分だろう。

そしてもうひとつ、非常に重要なことがある。

それは、国家に依存しない貨幣システムの台頭だ。

特定国に依存しない貨幣が普及することによるインパクトははかりしれない。善悪さまざまな影響があるわけだが、あえて本稿の趣旨に沿うものだけを挙げると、特定の国家に所属する治安維持装置には手の出せない、犯罪資金の収集と移動手段が確立されることになる。たとえば、ハッカーグループLulzSecは、BitCoinで寄付を募ったことがある。

BitCoin
http://www.bitcoin.org/
http://en.wikipedia.org/wiki/Bitcoin

発見:Twitterを介してコントロールされるBitcoinマイニングボット(エフセキュアブログ)
http://blog.f-secure.jp/archives/50621347.html

仲間集め、セキュアな連絡手段、資金収集と移動…犯罪に必要なものは全てそろった。あとは実行するだけだ。かつてアインシュタインは、「全人口の2%が兵役拒否すれば、政府は戦争を継続できない。なぜなら政府は兵役対象者の2%の人数を収容する刑務所を保有していないから」と言って反戦運動を行った。

皮肉なことに、今日犯罪者たちがこのセリフ通りのことを実行しはじめているのだ。

(一田和樹)

筆者略歴:作家、カナダ在住

一田和樹著/原書房刊「檻の中の少女」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/456204697X/

《ScanNetSecurity》

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