Scan Legacy 第二部 2006-2013 第6回「ネットセキュリティ総合研究所設立」 | ScanNetSecurity
2024.03.29(金)

Scan Legacy 第二部 2006-2013 第6回「ネットセキュリティ総合研究所設立」

もともと、収支トントンで維持していたScanNetSecurityだったので、キャッシュアウトはないものの、帳簿上は毎月200万円近い赤字を計上するスタートとなりました。

特集 コラム
本連載は、昨年10月に創刊15周年を迎えたScanNetSecurityの創刊から現在までをふりかえり、当誌がこれまで築いた価値、遺産を再検証する連載企画です。1998年の創刊からライブドア事件までを描く第一部と、ライブドアから売却された後から現在までを描く第二部のふたつのパートに分かれ、第一部は創刊編集長 原 隆志 氏への取材に基づいて作家の一田和樹氏が、第二部は現在までの経緯を知る、現 ScanNetSecurity 発行人 高橋が執筆します。

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(本稿は可能な限り正確な記述に努めますが、記載事項にはときに、誤った記憶等により、正しくない場合があることをあらかじめおことわり申し上げます)

バリオセキュア・ネットワークス社が用意した1億円の資本金をもとに、株式会社ネットセキュリティ総合研究所(NSRI)が2009年3月に設立され、社長にバリオのCEOの坂巻さんが、バリオのCOOの長谷部さんと私が取締役として就任しました。

長谷部さんは「おい高橋。オレ東工大出てIBM入ったら営業に回されてよお。東京中ぐるぐる回って社長撃ちまくる鉄砲玉やらされたよ。新しい会社頑張ろうな。イッシッシッシ…」が、お会いしてはじめてかけていただいた言葉でした。

長谷部さんは、フードジャーナリストの石塚英彦さんが北野武監督のアウトレイジの続編にもし出演したらこんな感じに違いない、という風貌の方で、男っぽいトム・フォードのスーツに、無骨なレザーストラップの PANERAI の腕時計が最高に似合った、人懐こい笑顔の人物で、しかし笑顔の奥には常に醒めた冷静な瞳がある方でした。

NSRI は、1億円の資本から6,400万円を使って、ScanNetSecurity事業をサイボウズ・メディアアンドテクノロジー社から買い取りました。私は、2009年4月5日の日曜日早朝に、恵比寿のオフィスに一人出社して荷物をまとめて、運送屋に引き渡しを行い、新しいオフィスである愛宕グリーンヒルズに日比谷線で向かいました。

天気は快晴、愛宕グリーンヒルズ周辺は桜の花が満開でした。新しい取り組みは一切禁止、やっていいのはシンクライアント事業の直接間接の活動のみという3年間が終了した開放感からか、まるであの世で眺めている光景のように美しかったのを覚えています。

サイボウズに売却されたときは3億円近い銀行預金がありましたが、今回の売却ではScanNetSecurity単体では若干の売掛金以外はほぼ何も資産がなかったわけで、純粋に媒体の価値としての譲渡額でした。一時年間8,000万円を超えた売上も、売却前年は、3,000万円程度に落ち込んでおり、おそらく売上2年分くらいの評価額だったのでしょう。エース営業マンだった板井さんは、サイボウズMTが発売したSaaS型ガルーンという微妙な(レクサスの軽自動車を作るような感じか)製品の専任担当に異動させられてすぐに退職していました。

引っ越しの荷物は、経理帳簿のファイル過去3年分と、わたしのパソコンとモニターだけ。タクシーで引っ越しすることも可能でした。

後日「高橋さんは、バリオに買われるときに、その後も媒体の責任者として仕事を続ける約束と引き替えに、何かボーナス的なそれなりのお金を受け取ったんですよね」とサイバーディフェンス研究所の松野真一さん(当時)にストレートに聞かれたことがあります。この種の質問はたまにされるのですが、もしそんなことがあったら、土屋さんがチンピラだとか、坂巻さんがゴッドファーザーのマイケル・コルレオーネ似だとか書けるはずがありません。

2006年以降の5年間で Scan は、計3度別の資本へ売却され計6回代表取締役社長が替わりましたが、その種の金銭的メリットは絶無で、そもそも飲食をおごってもらったことすらほとんどありません。原さんに、銀座の「はしご」というラーメン屋で2005年にたった一回だけ(!)おごってもらったのと、坂巻さんに神谷町のラックさんが入ったビル1階のタリーズで、会社設立直後にカフェラテを一回おごってもらった以外には、思い出すことができません。

(よくよく考えたら、銀座のはしごは自分で払ったような気がしてきました。原さんが、愛人または愛人候補またはおいしい仕事を紹介してくれる人以外に、そんなことをするとは極めて考えにくいからです)

こうしてスタートした新会社のもと、ScanNetSecurityは新しいページをひらきました。資本金1億とはいえ、ScanNetSecurityのM&Aで6,400万円使っているため、創業時点で3,600万円の現金しかありません。そして、6,400万円のM&Aの譲渡金額が、のれん償却費用として188万8,888円が毎月計上されてくるのは計算外でした。

もともと、収支トントンで維持していたScanNetSecurityだったので、キャッシュアウトはないものの、帳簿上は毎月200万円近い赤字を計上するスタートとなりました。

私は現状と課題をまとめ、新しい媒体運営計画を立てました。まず何よりも、3年間まったく投資されていなかった、Webサイトのリニューアルが先決でした。2,000万円を上限予算として、Webの有料会員制化や、SEOを意識したページ作りなどを進めることになりました。

しかし解せなかったのは、社長の坂巻さんの煮え切らない態度でした。上場会社が1億使って新しい事業会社を設立していながら、会議も打ち合わせも、まったく行われないのです。こちらから何か相談申し上げると「そういうことを話し合うために毎月の取締役会があるんです」とはぐらかされ、実際の取締役会は、毎回必ず、あらかじめ用意した書類を承認して判子を押すだけの儀礼的なもので終わりました。

仕方がないので、社長室に直接出向いて相談して、一通り現状をお話しすると、「高橋さん、ビジネスで何よりも大切なのは信頼です」などと、どこかはにかむような表情を浮かべながら、ポエムを朗読するようにおっしゃるばかりでした。「信頼が大切」なんて、1億人の人間がいたら、チャールズ・マンソン以外全員が賛成するでしょう。

新会社設立から約4ヶ月ほど経過した2009年7月30日木曜日、グランドプリンスホテル赤坂で開かれたトレンドマイクロさんのイベントの取材に行った私が社に戻ると、なんとなく社の雰囲気が違っていました。MLに流れている坂巻さんのメッセージを読めと言われて、

「お疲れ様です。坂巻です。重要なお知らせですので、時間のある時で結構ですので必ず目を通すようにお願いします」

で、はじまるメッセージに目を通しました。

「重要なお知らせ」なのに「時間のある時で結構」って、何かおかしくはないかと最初に違和感を感じながら、きれいに全角36文字の箇所で改行された、坂巻さんのメールを読み進めた私は、すぐにその理由を発見しました。魁男塾的に言う「なんだか猛烈にイヤな予感がするのお」が当たっていたのです。

(ScanNetSecurity 発行人 高橋潤哉)

《高橋 潤哉( Junya Takahashi )》

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