2021年SFプロトタイピングの旅 第3回「民主的な誰でもできる方法」 | ScanNetSecurity
2024.03.28(木)

2021年SFプロトタイピングの旅 第3回「民主的な誰でもできる方法」

 1968年に作家のクラークが発表した小説「2001年宇宙の旅」と、同年公開されたキューブリック監督による映画化作品の成功は、その後の人類の宇宙開発に少なからぬ影響を与えました。

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2021年SFプロトタイピングの旅
2021年SFプロトタイピングの旅 全 1 枚 拡大写真

 1968年に作家のクラークが発表した小説「2001年宇宙の旅」と、同年公開されたキューブリック監督による映画化作品の成功は、その後の人類の宇宙開発に少なからぬ影響を与えました。

 空想科学小説(SF)という文学ジャンルの持つ力を借りて、新しい価値観や目標、今までになかった製品やサービスを考える手法は「SFプロトタイピング」と呼ばれており、Intel社の研究機関の未来学者によって提唱され、近年日本でも注目が集まっています。

 SFプロトタイピングは、飛躍や自由な発想が積極的に許容され、その点が、既知のデータをもとにしたシミュレーションや未来予測とは異なっています。

 未知の要素を最大限考慮に入れながら将来やってくる未来を思い描く。これを「将来やってくる未来」ではなく「将来やってくる脅威」に置き換えれば、それはセキュリティ担当者なら多かれ少なかれみんながやっていることではないのか。

 そんな認識のもとで、2021年夏、1名の作家を含む識者3名が集まり、サイバーセキュリティ領域でのSFプロトタイピングの利活用の可能性について考える勉強会を開催しました。3名の講演とディスカッションで構成され、ディスカッションのテーマに設定したのは、サイバー攻撃の非対称性を無効化する兵器を構想すること。

 登壇したのは、著書「SFプロトタイピング: SFからイノベーションを生み出す新戦略」を早川書房から出版(共著)したばかりの、筑波大学の大澤 博隆 先生、そして、SFプロトタイピングを活用した企業コンサルティングの実績を持つアノン株式会社の森 竜太郎 社長。そして、サイバーミステリー作家の一田 和樹 氏の3名です。(註:所属及肩書は当時)

 昨2021年をはるかに超えて不確定要素が増す現在、3名の講演とそれに続くディスカッションを、勉強会の講演再録として連載でお届けします。第3回は、大澤先生講演の最終パートです。

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 SFプロトタイピングの手法と類似する手法はいっぱいあります。第一次プロトタイピング、デザインフィクション、スペキュラティブデザイン、シナリオプランニング、フューチャープランニングとかいろんな方法があって、ビジネスをやっている方でも「キーワードとして結構聞いたぞ」っていう感じで思われる方もいるかもしれない。

 特にSFプロトタイピングの強みは何なの、ということに関してここでまとめておきます。簡単に言うと、SFプロトタイピングというのは、より民主的な、誰でもできる方法だ、というのがひとつのポイントだと思います。

 例えばスペキュラティブデザインとかそれまでやられてきた方法だと、問題点を発見するためにアートの方を呼んで、未来像を描くという方法を採っている。それはそれで、非常に素晴らしいものが出てきたりする。例えばバイオロジーで「こういうふうに人間の社会は変わり得る」だとか「生物のあり方は変わりうる」というのは、ビジュアルに表現するとわかりやすくなったりします。

 だけどそういう専門知識がない人でも、設定をベースに未来はどうなるかを考えていくことは意外とできる。より多くの人が参加しやすいのが、SFプロトタイピングの一つのメリットかなと思います。

 もう一つはSFというフィクションであることがポイントですね。シナリオをベースに考えられるのはシナリオプランニングと一緒ですけれど、単に未来のスナップショットじゃなくて、流れとして動的に未来のストーリーを描けることは非常に大きいと思います。未来のビジョンとして、幸福な人もいるかもしれないけれども、不幸な人もいるかもしれない。だけど不幸な人もこういう過程で変わっていくかもしれない、と。

 後は、私の研究にもちょっと絡む話です。ストーリーにはキャラクター・登場人物が出てきます。登場人物の立場で色々なことを議論できるのは、非常に議論が活発化する上で重要だと思っています。例えば今回はセキュリティの問題が入ってくると思いますが、未来の世界で困っている人とか、なんか大変な状況に置かれてしまった人がいました。この人この後どうしたらいいでしょうか、という風になると、割と人間は想像を働かせやすいんですね。単に「未来でどういうふうに人を幸せにしたらいいでしょうか」と言われるよりも、「今、ヤバい人がいるけれども、私の専門で助けられるんだろうか」ということを、すごく議論しやすくなっています。そこがすごく大きいような気がします。

 そうすると、例えば専門的な技術を持っている理系の人だけじゃなくて、文系の人でも「自分の知っている限りで、こういう風な形で社会制度を設計し直せばイケるんじゃない」みたいな話をしたりできる。ある登場人物をベースに、それができるというところは非常に大きいと思っています。


《ScanNetSecurity》

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