「デジタル植民地」などという言葉があるが、宗主国による暴力的な価格更改や想定外のコスト上昇、巨額買収費用の一方的価格転嫁といった出来事は、30 年超の経済停滞が続き歴史的円安をも記録する現代の日本においては、もはや地政学的脅威であると記者は思っていて、そんな視点で取材して書いたのが今回のレポート記事である。
ガートナーのクラウド・ソフトウェア交渉プラクティスに所属するアナリスト、ハンナ・デッカー氏(写真)が 2026 年 6 月、東京で開催されたガートナー アプリケーション・イノベーション & ビジネス・ソリューション サミット2026 で生成 AI 購入時の予算超過を防ぐ手法を解説した。同氏はクライアントの生成 AI 契約の交渉を支援しており、講演では具体的な価格モデルの問題点と交渉戦術を明らかにした。
● 経営層の熱意が生む予算リスク
デッカー氏はまず、生成 AI が従来の技術投資より予算超過リスクが高い理由を説明した。
ガートナーの調査によれば、CEO の 85 %が AI によるコスト削減を期待し、86 %が収益成長を見込み、87 %がリスクよりメリットが大きいと判断している。この結果、現場は適切な検証時間もないまま迅速な実装を求められることになる。
加えて生成 AI の普及速度は前例がない。Netflix が 100 万ユーザー到達まで 3 年半、Instagram は 2 ヶ月半を要したが、ChatGPT はわずか 5 日間だった。変革ポテンシャルが誰にでも即座に理解でき、しかも汎用技術であるため適用範囲が無限に見える。
しかし最大の問題は経済構造の違いだとデッカー氏は指摘する。
● 従来の SaaS と根本的に異なるコスト構造
SaaS では、ベンダーは製品開発後、追加販売のコストが極めて低かった。このため粗利益率が高く、70 ~ 90 %の大幅値引きが可能だった。
ところが生成 AI では大規模言語モデル(LLM)が膨大なエネルギーとデータを消費し、ベンダーの提供コストが格段に高い。「ベンダーのビジネスモデルが転覆している」とデッカー氏は表現した。
結果としてベンダーは自社の利益を守ることを優先し、生成 AI 提供にかかる高コストと不確実性のリスクを、価格の付け方や契約条件の設計を通じて顧客側に負担させている。例えば、使用量が予測より増えた場合の追加コストは顧客が支払い、ベンダーは価格モデルをいつでも変更できる権利を確保する、といった形だ。
経営層の強い期待、無限に見えるユースケース、値引きが期待できない新コスト構造が重なり「予算外の大規模な超過料金という財務的打撃(Nasty Financial Surprises)につながる」とデッカー氏は警告する。
● 急増する「トークン・クレジット制」の正体
リスク転嫁の最も顕著な形態が、トークンおよびクレジットベースの価格モデルだとデッカー氏は説明する。
ガートナーは数年前、2027 年までに主要なエンタープライズソフトウェアベンダー(編集部註:たとえば Microsoft、Salesforce、Oracle、SAP、ServiceNow などの大手ベンダー)との新規契約の 25 %以上がクレジット制(事前購入したクレジットを消費していく課金方式)に移行すると予測していた。これらのベンダーは今や生成 AI 機能も提供している。だがデッカー氏は「この予測は控えめすぎた。非常に速く普及している」と語った。講演前日には Microsoft も Copilot Credits を追加した。
この課金モデルが急増する理由は明確だ。ベンダーは使用量に紐づくコストに対処しなければならないが、使用量自体が予測不可能だからだ。「販売モデルを簡素化し、ベンダー側のリスクを軽減するため、トークンとクレジット制に移行している」とデッカー氏は述べる。
仕組みはこうだ。顧客は事前に一定量のクレジットに対する支出をコミットする。各サービスには「クレジット乗数」があり、例えばサービス A は 1 回の操作で 4 クレジット、サービス B は 2 クレジット消費する。デッカー氏はこれを「ベンダーの通貨」と呼んだ。
● 理解すべき 5 つの要素
トークンまたはクレジット制の取引では、以下の 5 点を必ず理解する必要があるとデッカー氏は指摘した。

