第33回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」平成19年4月経産省発表の「情報システム・モデル取引・契約書」(19) <仕様変更・追加契約への対応> | ScanNetSecurity
2024.05.04(土)

第33回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」平成19年4月経産省発表の「情報システム・モデル取引・契約書」(19) <仕様変更・追加契約への対応>

●43 仕様変更・追加契約への対応

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●43 仕様変更・追加契約への対応

「情報システム・モデル取引・契約書」は、次のとおり記述しています。

「・ 契約書の内容の不十分さ
(中略)情報システム構築中における合意事項の変化(仕様の変更・詳細化・追加の判断など)、想定外事項の発生の取扱い等について、多くの場合が「本契約書に記載なき事項は、契約当事者は双方誠意を持って協議を行う」という一文に依拠し、契約書の記載事項としては、不十分かつ曖昧さを残したままで締結されていることが非常に問題であることが指摘された。」

当初から契約書が何もないという事例では、ベンダ側もそもそもシステム開発に着手できないため、することがそれほど多くはありません。既にシステム開発契約書自体は存在し開発に着手した後の、仕様変更・追加契約を巡っては紛争に発展することが少なくありません。

本稿でご紹介しました大阪地裁平成14年8月29日判決「スーパー土木事件」では、請負契約についても商法512条の適用を肯定し、さらに、仕様変更に基づく追加開発費については、代金額の定めのない新たな請負契約が成立したとし、その代金額について合意がなくとも、相当の追加開発費支払い義務を認めました。一方、東京地裁平成16年3月10日判決は、「本件電算システム開発契約等は請負契約であるから,被告の主張は失当である。」と、商法512条は請負契約には適用がないと限定解釈し、被告側の主張を認めませんでした。

仕様変更や追加契約については、紛争原因となるおそれがありますので、「情報システム・モデル取引・契約書」では「仕様変更等についての変更管理手続」が導入されています。

「(システム仕様書等の変更)
第34 条 甲又は乙は、システム仕様書、検査仕様書、第35 条により甲に承認された中間資料(以下総称して「仕様書等」という。)の内容についての変更が必要と認める場合、その変更の内容、理由等を明記した書面(以下「変更提案書」という。)を相手方に交付して、変更の提案を行うことができる。

2. 仕様書等の内容の変更は、第37 条(変更管理手続)によってのみこれを行うことができるものとする。」

「(変更管理手続)
第37 条 甲又は乙は、相手方から第34 条(システム仕様書等の変更)、第35 条(中間資料のユーザによる承認)、第36 条(未確定事項の取扱い)に基づく変更提案書を受領した場合、当該受領日から○日以内に、次の事項を記載した書面(以下「変更管理書」という。)を相手方に交付し、甲及び乙は、第12 条所定の連絡協議会において当該変更の可否につき協議するものとする。

(1) 変更の名称
(2) 提案の責任者
(3) 年月日
(4) 変更の理由
(5) 変更に係る仕様を含む変更の詳細事項
(6) 変更のために費用を要する場合はその額
(7) 検討期間を含めた変更作業のスケジュール
(8) その他変更が本契約及び個別契約の条件(作業期間又は納期、委託料、契約条項等)に与える影響

2. 第1 項の協議の結果、甲及び乙が変更を可とする場合は、甲乙双方の責任者が、変更管理書の記載事項(なお、協議の結果、変更がある場合は変更後の記載事項とする。以下同じ。)を承認の上、記名押印するものとする。

3. 前項による甲乙双方の承認をもって、変更が確定するものとする。但し、本契約及び個別契約の条件に影響を及ぼす場合は、甲及び乙は速やかに変更管理書に従い、第33 条(本契約及び個別契約内容の変更)に基づき変更契約を締結したときをもって変更が確定するものとする。

4. 乙は、甲から中断要請があるなどその他特段の事情がある場合、第1 項の協議が調わない間、本件業務を中断することができる。」

「(変更の協議不調に伴う契約終了)
第38 条 前条の協議の結果、変更の内容が作業期間又は納期、委託料及びその他の契約条件に影響を及ぼす等の理由により、甲が個別契約の続行を中止しようとするときは、甲は乙に対し、中止時点まで乙が遂行した個別業務についての委託料の支払い及び次項の損害を賠償した上、個別業務の未了部分について個別契約を解約することができる。

2. 甲は、前項により個別業務の未了部分について解約しようとする場合、解約により乙が出捐すべきこととなる費用その他乙に生じた損害を賠償しなければならない。」

「情報システム・モデル取引・契約書」では、システム仕様書等の変更を申し入れる方法、システム仕様書等の変更を申し入れがあった場合の対応、連絡協議会の開催などの手続きが規定されており、さらに、連絡協議会において変更の可否を協議しても、コストや納期の変更等についてユーザが受け入れることができない場合には、本条により個別契約の解約を選択することができるなどの法的効果が定められています。

民法641条は、「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。」と注文者による契約解除権を定めており、その条件として…

【執筆:弁護士・弁理士 日野修男 ( nobuo.hino@nifty.com )】
日野法律特許事務所 ( http://hino.moon.ne.jp/ )

【関連記事】
第29回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」
平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(15)
ソフトウェア開発委託契約の成否をめぐる判例(商法512条)
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第30回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」
平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(16)
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第31回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」
平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(17)
ソフトウェア開発委託契約の成否をめぐる判例(商法512条)(3)
https://www.netsecurity.ne.jp/7_10961.html
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