ICカードがなければスマホで入ればいいじゃない ~ 日本のビジネスパーソンが入退室カードから解放される日[HID VP インタビュー] | ScanNetSecurity
2024.04.16(火)

ICカードがなければスマホで入ればいいじゃない ~ 日本のビジネスパーソンが入退室カードから解放される日[HID VP インタビュー]

本年 2 月、ジェラルドは東京ビッグサイトで開催された「SECURITY SHOW 2023」のために来日した。「DX 後進国」とも言われる日本だが、はたして PACS 分野はグローバルよりも遅れているのか。ジェラルドに話を聞いた。

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「世界中のビジネスパーソンをプラスチック製の入館カードから解放する」HIDバイスプレジデント ジェラルド・グラトーニ氏
「世界中のビジネスパーソンをプラスチック製の入館カードから解放する」HIDバイスプレジデント ジェラルド・グラトーニ氏 全 6 枚 拡大写真

 誰にでも一度や二度はあるに違いない。うっかり入館カードを忘れて、ビルにあるいはオフィスに入れなくなったことが。誰かが出社していたらインターフォンで開けてもらい、総務から代替カードを受け取ることができるが、これが休日出勤だったりしたら目も当てられない事態になる。

 とはいえ忘れた自分が悪いんだし仕方ないことだ。そんなふうにここ 10 年 20 年ずっと思ってきたが、先日の取材で、プラスチックの IC カードを使って認証を行う入退室方法そのものが、近年疑問符が付され、国際的に刷新されつつあるということを知った。

 では一体何を認証に用いるのか。それは記事タイトルにあるマリーアントワネット風のお言葉通り、スマートフォンである。

 考えてみればスマホほど優れたトークンは他にない。肌身離さない点は眼鏡や腕時計、結婚指輪並みであるし、バッテリー切れがないよう常に所有者自身が(放っておいても)積極的に管理を行う。加えて、たとえ財布を忘れて家を出ることはあったとしても、スマホ忘れることなどまずない。所有(HAVE)による本人認証として、これほど優秀なトークンは他にない。

 HID Global Corporation(以下HID)は、クレデンシャル(認証情報)や入退室管理などの物理アクセスコントロールセキュリティ(PACS)分野で 30 年の歴史を持つグローバル企業だ。検索における Google と似たような強力なポジションを PACS 産業で占める。

 彼らが近年力を入れているのが、入退室などの IC カードをスマホにインクルードさせる取り組みだ。ID カードや各種クレデンシャルをすべてスマホに集約させ、ビル管理や入退室といった物理セキュリティと、PC 端末へのログインなどのデジタルセキュリティを融合させるソリューションを提供している。

 たとえばの話だが、海外にある支社を出張で訪れた際、手続不要でスマホをかざしてビルのゲートを通過し、リーダーのあるエレベーターを使い、支社のオフィスにも入室、帰りの移動の際は地下鉄の非接触 IC ゲートを同じスマホで通過し、帰国後にスポーツクラブに行く際にも同じスマホで入館する。そんな利便性がすでに一部の国や会社で実現されている。

 HID で、PACS の DX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進するのが同社バイスプレジデント ジェラルド・グラトーニ氏(以下 ジェラルド)だ。「ビジネスパーソンをプラスチック製の入館カードから解放する」と世界を駆けまわる日々を送る。

 本年 2 月、ジェラルドは東京ビッグサイトで開催された「SECURITY SHOW 2023」のために来日した。「DX 後進国」とも言われる日本だが、はたして PACS 分野はグローバルよりも遅れているのか。ジェラルドに話を聞いた。

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● 物理セキュリティ領域に Intel で培った経験を

―― まず最初に略歴を教えてください

 私は IT 業界で 20 年以上の経験があります。前職の Intel ではクラウドコンピューティング、AI などに携わりました。HID Global には 2018 年にジョインしました。

―― バリバリの IT の会社から、物理セキュリティの会社に入った理由はなんですか?

 Intel 時代のデジタルの知見や IT のスキルが、物理アクセスコントロールセキュリティ(PACS)産業に役に立つと思ったからです。グローバルではあらゆる産業が DX に取り組んでいる真っ最中です。HID が持つ、金融・不動産・製造・交通・空港・発電・軍・警察・巨大都市・国家など幅広い業界の顧客に対して、PACS を DX 化する付加価値を提供できると思いました。

―― HID の強みは何ですか?

 HID は非常にユニークなポジションにいると思います。まず HIDは、物理アクセスコントロールを成立させるための 4 つの必須要素である、「クレデンシャル(認証情報)」「(カード)リーダー」「コントローラー(リーダーで読み取った情報を判断し解錠等を制御する)」「モバイル」すべての領域でデファクトといえる製品を開発し、各領域に業界最高の技術者と専門家を擁しています。

── カードリーダーの専門企業や、スマホ認証の専門企業なら他にあっても、すべてを統合して世界で提供できるのは HID ということですね。

 その通りです。特に 4 つ目のモバイルの領域は、HID は 10 年ほど前から手掛けていますが、この領域で専業部署や専門家がいる PACS 事業者はまだ少ないと思います。また、もうひとつの特徴として、HID はソリューションをオープンスタンダードとして提供していることです。

● オープンアーキテクチャによる柔軟性と拡張性

――物理セキュリティの領域で、オープンアーキテクチャにこだわるのは面白いですね

 ですから「クレデンシャル」「カード」「リーダー」「コントローラー」の方式を、特定ベンダーに制限されることがありません。たとえば我々のソリューションなら、リーダーやコントローラに使われているハードウェアをリプレイスすることなく既存のままで、たとえばスマートフォン入退室に対応させることができます。世界中のレギュレーションや規格に対応を広げており、もちろん日本の FeliCa にも対応済みです。

――制限がないというのは、たとえばプラスチックカードとスマートフォンの両方が使えたりする、ということですか

 はい。我々は「マルチテックリーダー」と呼んでいます。当社のリーダーシリーズである「HID Signo」には、カードを含む旧世代のクレデンシャルとモバイルID を併用できる機能が搭載されていますので、モバイルへの移行と運用を柔軟に行えます。

 また、モバイル技術を生かして、認証やデータの管理をクラウドで行うことも可能です。HID では、モバイルID運用サービスidentity-as-a-service (IDaaS)である、HID Mobile Accessを提供しています。BLE(Bluetooth Low Energy)と NFC(Near Field Communication)通信に対応したリーダーと併せて用いることで、リーダーの手前でスマホをドアノブを回すように動かすだけで解錠できる独自の「Twist & Go」など、利便性を向上する機能も備えています。HID Mobile Accessは、セキュリティを担保した独自のクラウドプラットフォーム「HID Origo」上で運用しており、ログ管理、権限のリモート設定などをダッシュボードから行うことができます。

 プラスチックカードを廃止できれば、カードの製造枚数そのものを減らせますし、輸送に伴う二酸化炭素排出も抑えることができます。もちろん退職時のカード回収も不要です。クラウドから ID を無効にするだけですから。

――産業のグリーン化、カーボンフットプリント削減に貢献するということですね。いま伺った技術の展開事例があれば教えて下さい

 ポーランドに「Varso Place(ヴァルソ プレイス)」という、EU 圏で最も高層のビル「Varso Tower(ヴァルソ タワー)」を擁するオフィスビル群があります。ヴァルソプレイスの入退室システムには HID のソリューション「HID Mobile Access」が採用されています。リーダーは BLE(Bluetooth Low Energy)と NFC(Near Field Communication)に対応しており、およそ 7,000 人の従業員がスマートフォンを IC カードの代わりに使っています。

 もうひとつ、オーストラリアの不動産開発大手 Charter Hall Long WALE REIT 社が管理する 「Wesley Place(ウェズリー プレイス)」にも HID の「HID Mobile Access」が採用されており、約 3,000 人の従業員が、カードによる入退室からスマートフォンに切り替えました。

● ポストコロナ時代に注目 入退室ユーザーエクスペリエンス向上

――これまでのプラスチックカードによる入退室でも充分に役目は果たせていたとも言えます。にも関わらず、近年「入退室の DX」の事例が増えている理由は何だと思いますか?

 大きくわけて「従業員のユーザーエクスペリエンスの向上」「スマートビルのデータ分析と管理」「ビルの不動産価値向上」の 3 つが挙げられます。

 まず最初に、グローバルではポスト COVID に伴い、これまでのリモートワークから、出社を再開する企業が増えています。とはいえ 100 %出社に戻す企業は多くありません。なぜならリモートの便利さを知った従業員に「明日から全員出社」などと呼びかければ、社員から「ユーザーエクスペリエンスが悪い企業」と判断され優秀な人材から順に離職しかねないからです。従業員満足度という視点で、よりストレスが少ないスマホによる入退室を検討する企業が増えています。

──オフィスの快適さの比較対象が、これまでのように他の会社のオフィスではなく、各従業員の自宅にもなったということですね

 また、スマートビルディングにおいては、「HID Mobile Access」と「HID Origoクラウド」を組み合わせたソリューションが有効です。現在ビル内に何名のテナントがいて、各階に何名ずついるか等の情報は、たとえば火災発生などの際にビル管理上極めて重要なデータなのですが、こうした管理に HID のソリューションを活用することができます。

 最後に、主にオフィスビル等の建築物のデジタルインフラの品質と耐障害性を評価する「WiredScore(ワイヤードスコア)」という国際認証規格がありますが、WiredScore では入退室の利便性が評価項目に含まれています。スマートフォンの入退室管理を採用することはビルの付加価値を上げると言うこともできます。

――日本は DX(デジタルトランスフォーメーション)で世界から遅れているとも言われます。ジェラルドさんから見て、日本の PACS 市場もそうだと思いますか?

 いいえ。そうは思いません。FeliCa の技術が示すように日本の技術は大変に進んでいます。システムは高速で高性能だし、リーダーとコントローラが一体化しているのも他国にない日本の素晴らしい特徴です。セキュリティに対して政府の取り組みも進んでおり IT 環境が整っています。ですから、すぐにでもプラスチックカードを捨てて、スマートフォンによる入退室に切り替えることが可能な状態だと思います。

 海外と日本で違いがあるとしたら、ビル管理や入退室に対する考え方、文化は異なるかもしれません。たとえば、日本の ID カードは、オフィスやビルの消灯、警備システムの稼働や終了処理までできてしまいます。これは海外では非常に稀です。なぜならオフィスの消灯や警備システムのオンオフは、ビルオーナーの仕事であって、テナントやその従業員が行う作業ではないと考えるからです。

● ビル管理や入退室の「文化」が違う日本での戦略

――確かに日本は、企業ごと事業所ごとに管理責任があると考えるかもしれません。海外の方がそれぞれの責任範囲と分界点を明確にしますね。では、そんな、文化が異なる日本での販売戦略はどう考えていますか?

 私たちのエンドユーザーは、日本の大企業様やオフィスビルのオーナー様になります。

 HID は、「認証技術」「クレデンシャル」「リーダー」「コントローラー」「モバイル」「クラウドソリューション」と、物理アクセスコントロールセキュリティに必要な全ての技術とハードウェアを一社で垂直統合しています。HID の戦略はパートナーシップです。

 HID は、伝統的な物理セキュリティシステムを取り扱うメーカーやシステムインテグレーターを「トラディショナルパートナー」、ビルマネジメントのアプリケーションやサービス、管理システム、ソリューションなどを手掛ける開発ベンダーを「デジタルテクノロジーパートナー」と呼んでいます。

 HID は日本市場において、このふたつのパートナーをつなぐ役目を果たすことで、日本の入退室管理の DX 推進に貢献したいと思っています。トラディショナルパートナーにはオープン化された各種製品を、デジタルテクノロジーパートナーには SDK や API を用意しています。

 HID が提供する素材を、優れた日本のパートナーの方が、自社システムやサービスに適合するように活用いただければと思います。特に、カードリーダーにスマホをかざすだけのモバイルアクセス技術「HID Mobile Access」は、日本のオフィスビルにも採用が進むことを期待しています。

──私自身何度かカードを忘れたりして苦労したことがあります。スマホで済む日が来るのなら実にありがたい。本日はどうもありがとうございました。

SECURITY SHOW 2023、HID展示ブース

これがコントローラ、リーダー1基につき1台のコントローラが対応する

スマホに入退室カードを取り込んだ状態

SECURITY SHOW 2023出展の目玉製品のひとつ「HID Signo」、写真はSignoシリーズのひとつで、所持認証のカードと指紋認証とを組み合わせて2要素認証を行うリーダー「HID Signo 25B」、指紋データはHIDのクラウド「HID Origo」上で照会されたあと破棄され、蓄積・保持されないためGDPRのような認証にも対応できる

HID Mobile Accessの独自機能の一つである「Twist & Go」。
ドアノブを回すようなジェスチャーでドアロックを解除する

《取材・文:中尾真二/編集構成:ScanNetSecurity編集部》

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