サイバーから物理介入まで一気通貫 SECON 2026で見た"理想のセキュリティ" | ScanNetSecurity
2026.04.16(木)

サイバーから物理介入まで一気通貫 SECON 2026で見た"理想のセキュリティ"

 韓国のサイバーセキュリティ技術が物理セキュリティ技術と密接にかかわる進化を遂げているのは、同国の近代史を紐解くと見えてくる。韓国ITの源流は、金大中大統領(1998~2003年在任)による政策「サイバーコリア21」にある。当時の韓国は1997年のアジア通貨危機によってIMFの管理下に置かれるという非常に厳しい国家情勢にあった。ある意味「成長戦略」というよりは「生存戦略」とも呼べるものだった。

研修・セミナー・カンファレンス セミナー・イベント
会場となったKINTEX
会場となったKINTEX 全 19 枚 拡大写真

 2026年3月、物理とサイバーを融合したセキュリティカンファレンス「SECON & eGISEC 2026」が開催された。ScanNetsecurity はここ数年ほど定点観測的に継続取材を行っている。国内でもこうした「大規模監視」は行われているのかもしれないが、日本でその技術や実態を取材する機会は皆無といっていい。SECONでは、GPUを使って民族識別などを行うことで話題となった中国の監視カメラ大手がふつうにブースを出展していたりする。このカンファレンスはそういう意味で目が離せない。

●ロボット実装だけがフィジカルAIではない

 SECON & eGISEC 2026(以下SECON)は、韓国で開催されるセキュリティカンファレンス・見本市である。特徴は警備システム、セキュリティゲート、カメラ、X線検査装置といった物理セキュリティと、ウイルス対策やインシデント対応ソリューションなどサイバーセキュリティに関する研究発表や技術・製品展示が合同で行われること。

 2026年は19の国と地域から412社が出展し、来場者は32の国・地域から2万6千人以上を記録した。カンファレンスは32トラック、159ものセミナー・カンファレンスが行われ、招待された発注規模の大きいバイヤーは100を超えた。

 SECONの共通テーマは「物理とサイバーの融合」だが、今年のメインコンセプトは「セキュリティとAIの融合」を前面に打ち出した。AIを活用した監視システムや行動認識は、過去のScanNetsecurityのSECONレポート記事でも触れている。そもそもセキュリティ対策にAIを導入するブームは10年前、あるいはもっと前まで遡ることができる。いまさら強調するまでもないが、会場をつぶさに回ると、あえてAIを強調した意味が見えてくる。

 結論を先に説明すると、SECON 2026における「AI融合」は、これまで各論技術への適合だったものが、アプリケーション、さらには意思決定にまで入り込んできている。セキュリティの分野でも、画像認識やログ解析など、検知や認知どまりだったAI(機械学習)が、意思決定や行動にまで適用された実例が展示されたカンファレンスといっていいだろう。

 今風の言葉でいえば「フィジカルAIの各種実装展示」となる。しかし、SECONのSECONたる部分は、スマートな二足歩行ロボットの華麗な演舞、ではなく2世代くらい前の四足歩行ロボ、鋼鉄製のバリケード、電子柵、CCTV、防犯機器などに惜しみなく最新の生成AIがインストールまたはクラウド連携されているところだ。見た目はまったく洗練されていないかもしれないが、背後にあるネットワークやクラウドサーバは最先端という世界観を見ることができる。

●国境監視から駐車場の空き検索までAI統合

 SECONでは、一件なんの変哲もない機器が、日本では馴染みのない用途や機能を持っている。そんな場面によく出くわす。実際にどんな展示やショーケースが見られたのだろうか。目についた展示をいくつか紹介する。

 たとえば、NURICONという会社は、AIによる画像解析・認識の技術を持つ企業だ。得意とするのはAIを使ったカメラのズームイン、画像補正の技術。赤外線カメラ、またはカメラ映像の光の屈折からガス漏れ、流体の検知などの技術もある。古い映像や不鮮明な画像をAIで補正しながら行動解析の精度を上げている。

 ブースでは北朝鮮との国境付近で起きた爆発(!)の監視カメラの画像を、拡大・鮮明化させるデモを行っていた。爆発は、記録映像で古いカメラによる撮影だったが、爆炎、周辺で活動する兵士の手足の動きの解像度が上がっている。無論爆発は北からの軍事行動によるものだという。

国境付近で起きた爆発をAIにより補正して細部の状況を調べる

 煙や炎の検知は、身近な例でも活用が進んでいる。Wisecon社は、駐車場の監視カメラを解析ソリューションとともに提供・展示していた。地下駐車場での火災は大参事につながる。早期検知は被害拡大の抑え込みに直結する。同社のAI監視カメラシステムの特徴は、煙や火災検知など防犯機能に特化しているわけではなく、純粋なビジネス用途にも対応していることだ。駐車場の空きスポットの検知、車両のナンバー読み取りと入退出管理、課金なども同じカメラシステムに統合されている。

 D&S Technology社は、大型の自動ゲートやロードブロックなどを手掛ける会社。ブース正面には、鋼鉄製の自動開閉ゲートを設置し、開閉のデモを行っていた。このゲートは軍施設、発電所や工場などの出入り口に設置される頑丈かつ大型のものだが、同社の自動開閉システムは、高速道路にも応用されている。事故や工事、道路封鎖による車線規制、う回路確保のため、高速道路などに3キロごとに設置されるゲートなども製造する。

D&STの大型自動ゲート

 なお、このD&S Technologyは、2年前には戦車にも対応するロードブロックシステムを展示していた会社だ。今回も同じシステムもデモされていた。この国ではソウルへ向けて北朝鮮から戦車が疾走してくるという事態がなんら夢物語ではない。

●電柱とは違う「スマートポール」というインフラ

 ボール(ball)ではなくポール(pole)である。韓国には「スマートポール(S-Pole)」という都市インフラがある。マイク、スピーカー、CCTV、非常ボタンが備わったスマートポールが、街中に設置されており、事故や事件は非常ボタンを押して警察に通報できる。マイクが悲鳴や衝撃音を検知したら自動でアラートが飛ぶ。スピーカーは広域の警報やアナウンスの他、現場の通報者とのコミュニケーションにも使える。

移動中に見かけたスマートポール、街中にインフラとして多数展開している

 スマートポールに関する技術やソリューションの展示も多い。INODEP社は、CCTVとそのソリューションに強く、政府調達の50%の案件に関わっているという。同社は15年前から全国に320万台のCCTVを設置しており、韓国内に25の監視ステーションがある。監視カメラはステーションごとにネットワーク化され、スマートポールや各地CCTVの情報が集約されている。インストールされるアプリケーションとしては、各自治体で導入が進む「迷子捜索システム」が代表例。そのほか交通管制などにも使われる。

スマートポールから収集する映像や音声の集中管理画面、管制室からはスピーカーで誘導指示も可能

 編集部の韓国取材のちょうど帰国日に、我々のスマートフォンに「緊急通報」が着信した。内容はソウル市内の道路封鎖に関する情報だ。あとで調べると「BTS」の復帰講演が翌日行われる影響で発生した道路封鎖だった。

帰国の空港で受信した道路封鎖案内

 空港などでよく見かけるX線の荷物検査システムでは、DEEPNOID社の展示が目を引いた。X線により鞄の中の不審物、危険物をチェックする機械だが、形状の認識は人が行う。金属が重なっていると形状の認識は職人技、ベテランの勘によったりするが、ここもAIが活用される領域だ。DEEPNOIDのAIはこのような職人技による認識を再現するが、蓄積されたデータを教材として活用し新人のトレーニングにも利用されているという。

空港などのX線検査機、わかりやすい映り方をしない場合の検知精度をAIで上げる

 AIはさまざまなシチュエーションの画像を学習し、ナイフや銃が一部しか見えなくてもその特徴を認識し危険、不審といった判断を行う。税関職員の直感が立てるフラグのようなものだが、AIの学習データが人間に対する学習にも活用される。ヒトとAIの関係が逆転しているような感想を持った。

●識別率では顔認証より高い手のひら認証の使い道

 サイバーセキュリティのブースもいくつか取材した。韓国でもBEC詐欺が深刻な問題になっているといい、メールセキュリティに特化したセキュリティベンダーが多数出展していた。トレンドはメールのスクリーニング、添付ファイル等のチェックをAIを使って行うソリューションとなる。ディープフェイクによる詐欺メールやBECに対して、AIで対抗するものだが、「BECGUARD」(KIWONTECH社)という直球のネーミングのBEC対策ソフトさえあった。

 また、顔認証技術の展示ブースでは、生成AIや、写真や顔面マスクによるフェイクを見抜く技術も確立されており、本物の人間の顔を認識する技術を競っていた(HANCON社)。サイバー空間では、リアル映像とAIによって生成された映像が氾濫している。セキュリティや防犯の分野では、AIが「これはAIっぽいのであやしい」と判定する時代にいまや突入している。

 ところで、実は認識率においては顔認証よりも手のひら静脈パターンのほうが高い。そんな手のひら認証を売り込んでいたのは、HumanIntech社のブースだ。

識別率は顔認証より高いという静脈パターン認証

 スマートフォン大のデバイスのカメラで静脈パターンを読み取る。低温時に手のひらの体温が下がることで認識率が下がる欠点はあるものの、入退室管理では手のひら認証が使いやすい場合がある。顔認証より認証データ採取の心理的抵抗感が少ないからだ。空港などで顔写真を撮られるのはまあしかたないとして、民間の工場やビルの出入りに顔を登録するのは抵抗を感じる人が多いのではないだろうか。

 HumanIntechのソリューションは、日本円で30万から50万円ほどでスタンドアローン型の手のひら認証システムが導入可能だそうだ。クラウドサービスではないので、生体情報はローカルのサーバーで保存・管理される。認証デバイスは最大50台、50ゲートまで対応する。広域LANなどで管理アプリケーションとゲートの認証デバイスをつなげば、各地の営業所や工場など遠隔地のゲートも一括管理が可能だ。

●日本の警察も関心を示す防犯ガジェットとは

 SECONはB2Bの見本市だが、監視カメラ(隠しカメラ)発見器や護身用グッズなどB2C製品の展示も多数存在する。ワールドヒューマンテック社の「MAGMA」は、護身用のペッパースプレーなのだが見た目のガジェット感が高い。大きめのライターのようなタイプと、「デッカードのブラスター」と言えなくもない見た目の拳銃タイプがある。機能はペッパースプレーの他、大音量のアラームとLEDサーチライトとして使える。ハイエンドモデルは、振動検知による盗難防止機能と人感センサーによる防犯センサー機能もついている。

拳銃タイプの護身スプレー

 韓国では若い女性などの購入者もあるという。拳銃タイプは、かえって状況をエスカレーションさせないかが気になる。ブース説明員によると、韓国および日本でも許可証や登録などが必要なく所持できる防犯グッズとのことだ。

 顧客には警察関係者も多く、実際に日本の警察で採用の話が進んでいるという。日本の場合、ライトやペッパースプレーは、暴漢対策だけでなく熊対策にも有効だろう。日本ではたとえ護身用でも攻撃・加害要素があるものは社会的になじまないだろう。悪用による被害の評価に重みを置くからだ。だが、事前の規制による抑止の他、悪用や結果に厳格に対応することによる抑止方法もある。

●K-Securityの次のステップに進むSECON

 以上のようにSECONは、硬軟および緩急織り交ぜた見本市ということもできるが、今回のテーマや韓国の市場背景について改めて考えてみたい。

 2025年、昨年のSECONでは「K-Security」が大きなテーマだった。K-POP、K-Cultureのように韓国のセキュリティ産業を世界に向けて発信するという国家戦略が背景にある取り組みだ。日本にも国産セキュリティベンダーはいくつか活躍しているが、主な市場は国内であり、セキュリティの上場企業の時価総額は50億円前後と小粒でトレンドマイクロのような特別な例を除くとグローバルブランドは存在しない。しかも、政府機関や大手企業が導入しているソリューションやアプライアンスの多くはアメリカやイスラエルを筆頭とする海外ブランドばかりだ。

 韓国も似たような状況ではあるが、アジアを足がかかりに新興国のセキュリティ市場へ戦略的な展開を始めている。地政学的問題、経済安全保障の問題から、米露中の製品を扱いにくい中東諸国やアジアに「K-Security」を売り込もうとしている。

  今年のK-Securityは、個社の要素技術の展開だけではなく、「フィジカルAI(ドローン等の身体にAIを実装したもの)」を活用した統合ソリューションへの転換を図っている。この場合、サイバーセキュリティ技術以外に、物理セキュリティや社会インフラ連携、最先端のロボティクスも欠かせない要素となる。したがって、統合ソリューションにはパートナーシップ戦略が大きな役割を担うことになる。

●サイバー空間からの即応体制

 本稿の前半で、国境警備の監視カメラ映像にAIによる画像補正処理や行動認識を加え、異常検知を柔軟かつ高精度にする取り組みを紹介した。韓国において国境警備は現実の問題である。CATIS社は、韓国国内のロボティクス企業とともに「国境のリモート監視ソリューション」を開発していた

 CATISは、空港、発電所、データセンターなどの物理施設への侵入検知システムベンダー。フェンスに取り付ける加速度センサーを始め、各種の侵入警報システムを作っている会社だ。監視カメラ技術も保有しており、画像処理、画像認識の知見もある。これに韓国製の四足歩行ロボットを組み合わせ、安全な遠隔警備システムを考案した。

ロボットとの組み合わせで初動対応の幅と機能を拡大させる国境警備システム

 これは、フェンスのセンサーやカメラが異常を検知すると、カメラやセンサーを搭載したロボットが現場に急行し、周辺の状況を確認、報告する。このシステムにより、軍施設や国境警備において人間を危険にさらすことなく、異常の確認や警報の解除などを遠隔から安全に行うことができる。必要なら現場での脅威排除や初期介入(First Intervention)まで行い、本格的な対応までの時間かせぎや適切な前処理を行える。

 つまり、CATISのシステムは、CCTVの映像等をAIで分析して自動でアラートを出すだけにとどまらない。デジタル技術とAIで分析した結果に基づいて、四足歩行ロボットやドローンなどを活用して物理空間での対応を即時に行える可能性を示している。

 このように検知から対応に直結しうることはセキュリティ対策としてはある意味で“理想のセキュリティ”と言えるだろう。しかしこれは手放しで喜べるものでもない。誤検知や誤判定による介入や対応が行われた場合、その責任の問題が残るからだ。もし自分が何かの理由で重要施設のフェンス等にうっかり接触してしまい、時を置かずに自律判断を行うドローンが飛んできたとしたら、そのとき感じるのは恐怖以外の何ものでもないだろう。アルゴリズムで内定辞退しそうな求職者を判断して落としていたという悪質なデジタル技術活用事例が日本であったが、そこで危険にさらされたのは「就職の機会」といった社会的利益だった、一方でフィジカルAIによる物理介入で危険になるのは自分自身の生身の身体である。気のせいか無骨な四足歩行ロボットが、かつて宮崎駿が作品で描いた、自律判断を行う「シグマ」と名付けられた軍用ロボットのように見えた。

千葉工大の古田教授が連れているロボットと比較すると見た目はかなり武骨だが、クラウドと接続し AI による分析や判断をもとに行動することができる

●韓国セキュリティの源流は金大中大統領の戦略に

 韓国のサイバーセキュリティ技術が物理セキュリティ技術と密接にかかわる進化を遂げているのは、同国の近代史を紐解くと見えてくる。韓国ITの源流は、金大中大統領(1998~2003年在任)による政策「サイバーコリア21」にある。

 当時の韓国は1997年のアジア通貨危機によってIMFの管理下に置かれるという非常に厳しい国家情勢にあった。ある意味「成長戦略」というよりは「生存戦略」とも呼べるものだった。金大中氏は、年寄りには「軍政時代に日本で拉致された大統領候補(1973年)」として記憶している人が多い。だが同氏は、15年後に大統領に選出され、経済の立て直しに情報化戦略を柱に据えた人物だ。とくに情報通信インフラの整備を最重要課題として超高速ネットワークの国内普及を進めた。同時に、情報通信教育や電子政府の推進にも注力する。

 この情報基盤整備が、現在のネットワークインフラ、高度な電子政府基盤として結実している。インフラ整備が箱もの行政にとどまらず、サービスおよび社会実装戦略をもった情報通信化政策と結びついていたからこそ、韓国を高度なIT国家たらしめている。結果として、サイバーと物理セキュリティが自然に融合している。AIの積極的な社会実装もその流れから必然でもある。

 SECON 2026は、セキュリティ分野におけるAI活用が「分析や検知」から「意思決定や行動」へと明確にフェーズを移行したことを示すカンファレンスだった。国境監視の画像補正から駐車場管理、X線検査の職人技再現まで、AIはあらゆる物理セキュリティの現場に浸透し、CATISの事例が示すように、異常検知から四足歩行ロボットによる現場対応までデジタルから物理へ一気通貫で実行しうる段階に達している。しかし、自動化された判断と物理的介入が直結する世界は、誤まった判断が行われる等の新たな課題も突きつける。金大中政権以来の情報化戦略を土台に、サイバーと物理の融合を社会実装レベルで推し進める韓国の動向は、今後も日本のセキュリティ産業にとって示唆に富む定点観測対象であり続けるだろう。

《中尾 真二( Shinji Nakao )》

関連記事

この記事の写真

/

特集

PageTop

アクセスランキング

  1. マイナビが利用するクラウドサービスへの不正アクセス、一般ユーザー74,224件の個人情報が流出した可能性

    マイナビが利用するクラウドサービスへの不正アクセス、一般ユーザー74,224件の個人情報が流出した可能性

  2. サイバーから物理介入まで一気通貫 SECON 2026で見た

    サイバーから物理介入まで一気通貫 SECON 2026で見た"理想のセキュリティ"

  3. マイナビが利用するクラウドサービスへの不正アクセス、JOINフェア出展の64団体の情報が流出した可能性

    マイナビが利用するクラウドサービスへの不正アクセス、JOINフェア出展の64団体の情報が流出した可能性

  4. 東急リゾーツ&ステイで宛先誤り協力会社の従業員1名に顧客情報を含むCSVファイルを送信

    東急リゾーツ&ステイで宛先誤り協力会社の従業員1名に顧客情報を含むCSVファイルを送信

  5. AIエージェントを「人と同等に」管理するための具体的な手法について解説

    AIエージェントを「人と同等に」管理するための具体的な手法について解説

ランキングをもっと見る
PageTop