昨秋開催された Internet Week 2025 で「続・ドメイン名終活 ~使い終わったドメイン名1年の観測分析から見えたリスクと対策~」と題した NTTドコモビジネス株式会社 イノベーションセンター 冨樫良介氏と猪飼人大氏の講演が行われた。続編にも関わらず大変な好評を博したセッションであり、2026 年 6 月には静岡でアンコール公演も行われた。
なお最初に申し上げておくと、本記事の公開日が 8 月 13 日というお盆期間に重なるということで、怪談めいた「“死後”の世界」などという記事タイトルをつい誘惑に負けてつけてしまったのだが、これは記者の創作でもゼロから盛っている釣りタイトルでもなく、講演者が自ら「使後の世界」という魅力的ワーディングをセッションとそのスライドで行っており、そこに乗っからせていただいたものである。そもそも死んでなどいませんし。なんのことか想像がつく人はこの記事を必ずしも読む必要は薄く、むしろまったくこの問題を認識していない人にこそ読んでもらいたい記事である。
● ドメイン解約後からはじまる諸問題
事業やサービスが終われば Web サイトで使っていたドメイン名は不要になる。維持費を払い続けるのは無用のコストだから契約更新をやめて手放す。ごく自然な経済的合理性に基づいた判断だ。ところが企業によっては一度使ったドメインを手放さず「永年保有」するというポリシーを定めている場合がある。なぜ、不要コストを払い続けるのか。
それは、ドメイン名には使用が終わった「使後の世界」があるからだ。登壇者の言葉を借りれば、廃止が終わりではなく、手放した瞬間から、そのドメインは別の生を歩み始める。捨てたはずの家に見知らぬ誰かが住み着き、あなたの会社の名を騙って手紙を出し、かつての取引先や顧客をおびき寄せる。
本セッションは、NTTドコモビジネス株式会社が自社の利用終了ドメインを約 1 年にわたり観測し続けた“使後の世界(使用が終わった後の世界)”の貴重な観測記録だ。何が起きていたのか。順に見ていこう。
● 第三者がドメインを取得するドロップキャッチ
ドロップキャッチとは、あるドメインの登録期限が切れて再登録可能になるタイミングで第三者が登録する行為を指す。企業や団体が使っていたドメインには知名度や信頼という「価値」が付帯することがあり、オークションで高値で売買されたり、悪意ある第三者に取得されて悪用されたりする。
こうした被害を最小化するため、NTTドコモビジネスは利用終了ドメインを永年保有する方針を採った。加えて、そもそも独自ドメインを乱立させず ntt.com のサブドメイン利用を促進し、AS 番号・IPアドレス・ドメインといったネットワーク資源を一元管理する社内組織「ComNIC」を設立してもいる。誰がどの資源を管理しているかが分かる状態を作らなければ、インシデント時に被害範囲すら特定できないからだ。

ただし永年保有にも課題はある。ひとつは維持コスト。もうひとつは、誰も使わない資源を一組織が抱え続けることが、インターネット資源の健全な利用を妨げるのでは、という指摘だ。返せるものは返したい、だが返して安全かどうかを見極めるにはリスク分析が要る。この動機から、彼らは利用終了ドメインへの「Web アクセス」「DNS クエリ」「受信メール」を観測する基盤を AWS 上に構築し、中長期の分析を開始した。いったい何が見えてきたのか。
● Web アクセスの 8 割は人ならざる者
ドロップキャッチされた先で悪性サイトが作られると、事情を知らない訪問者が、ネット上に残ったリンクや検索結果からそこへ誘導されてしまう。知らずにアクセスしてくる人間のユーザーを登壇者は「残存訪問者」と呼んだ。廃止の是非を判断する上で本当に重要なのは、アクセスの「回数」ではなく、この残存訪問者の「人数」だという。

