インターネットの技術と運用に関わるエンジニアが一堂に会するイベント「Internet Week(IW)」。1990 年代から続く歴史あるインターネットの技術カンファレンスであり、今年 2026 年は 30 回目の開催。ネットワーク運用、セキュリティ、ガバナンス、教育など多岐にわたる分野の専門家が登壇する。
2026 年開催は、オンラインが 11 月 19 日(木)から 11 月 24 日(火)まで(土日除く)、オンサイトが 11 月 25 日(水)から 11 月 27 日(金)まで東京・両国 KFC Hall & Rooms で「AI 時代を生き抜く術(すべ)を学べ」をテーマに開催される。
今回取り上げるのは、PQC(耐量子計算機暗号)への移行をテーマにしたプログラムだ。企画担当の吉川知輝氏(一般社団法人 Home NOC Operators' Group、写真)に、企画の背景や見どころを聞いた。
●「動向を追う」段階から、「どう移行するか」を考える段階へ
― このプログラムを企画した背景や狙いを教えてください
PQC については以前から、「量子計算機の実用化に備えて移行が必要」と言われてきました。最近では標準化や政府の移行方針に加え、TLS など実際のソフトウェアやサービスでの実装も進んでいます。将来に備えて動向を追う段階から、実際にどう移行していくのかを考える段階に入ってきたと感じています。
一方で、インターネット運用者や企業のシステム担当者から見ると、最新動向は聞こえてくるものの、「では自分たちは今何をすればよいのか」が見えにくい状況です。PQC は昨年の DNS DAY でも取り上げられましたが、今回は DNS に限定せず、まず PQC 移行の全体像を整理します。そのうえで、標準化や実装が比較的具体化している TLS 1.3 を題材に、移行は実際にどう進んでいるのか、対応製品が出揃っていない中で何から準備できるのかまで考えます。単なる動向紹介ではなく、「自分たちが何から動き出せるのか」を持ち帰っていただける内容にしたいと考えています。
●「最新動向」カテゴリ。数学的な詳細の理解は不要
― 今年の IW は「ベーシック」「実践」「最新動向」に分類されています。このプログラムはどれに当たりますか?
「最新動向」の位置づけです。ただ、いきなり最新の標準やアルゴリズムの話から始めるわけではありません。まず PQC 移行の背景と全体像を整理し、次に TLS 1.3 を具体例として移行の現在地を見て、最後に各組織が今からできる準備へ進む流れを想定しています。暗号アルゴリズムの数学的な詳細よりも、「なぜ移行が必要なのか」「実際のシステムではどう変わるのか」「自分たちは何を考えておくべきか」を理解していただくことを重視しています。基本から最新動向へ、段階的に理解できる構成です。
● 標準化から実システムへの移行まで、俯瞰して語れる登壇者
― どのような点を重視して講演者をアサインしましたか?
企画当初から、PQC のアルゴリズムそのものだけでなく、標準化やロードマップ、実際のシステムへの移行までを俯瞰してお話しいただける方にお願いしたいと考えていました。伊藤氏は CRYPTREC の活動に加え、TLS をはじめとするインターネットセキュリティ技術の標準化にも携わっています。暗号技術の最新動向だけでなく、それをシステムにどう適用・移行していくのかという観点からも話していただけると思い、ご登壇をお願いしました。
PQC では、TLS のように具体的な移行が進みつつある領域がある一方、エンタープライズ向けにはまだ対応製品が出揃っていない領域もあります。だからこそ、最新動向の紹介にとどまらず、「現時点で何ができ、何を準備しておくべきか」まで整理していただきたいと考えています。
● 見どころは、「最新動向」と「実際の移行」をつなぐ部分
― 特に注目してほしいポイントはなんですか?
一番は PQC の最新動向と実際の移行をつなぐ部分です。TLS は PQC 対応の検討や実装が比較的先行している分野です。実際にどのような変更が行われつつあるかを見ることで、PQC 移行をより現実的な課題として理解していただけると思います。もう一つは、「PQC 対応製品が出揃うまで待つしかないのか」という点です。アルゴリズムや製品が確定する前でも、自組織で利用している暗号の棚卸しや重要システムの把握、将来の移行に向けたマイルストーンの検討など、今から取り組める準備はあります。「最新の PQC アルゴリズムは何か」だけでなく、「自組織として何を準備し、どのような順番で移行を進めるべきか」という視点で聞いていただけると、より実践的な学びにつながると思います。
● 基盤技術の変化に備えることも、「AI 時代を生き抜く術」
― このセッションは今年の IW テーマ「AI 時代を生き抜く術を学べ」とは、どのようにつながりますか?
本プログラムは AI そのものを直接扱うセッションではありません。ただ、AI 時代においても、PQC への移行はインターネットを安全に利用し続けるために、今後さらに重要になるテーマの一つだと考えています。IW2026 では、これまで積み重ねてきたインターネットの実践知を AI 時代に向けてアップデートしていくことが大きなテーマになっています。AI が急速に普及する一方で、それを支えるネットワークや TLS、PKI といった基盤技術も変化していきます。PQC 移行はその大きな変化の一つです。新しい技術だけを追うのではなく、普段は当たり前に使っている基盤技術が今後どう変わり、自分たちはどう備えるのかを理解しておくことも、「AI 時代を生き抜く術」の一つだと考えています。
● TLS や PKI の利用者、暗号を使う基盤の運用者におすすめ
― どんな方に受講して欲しいですか?
PQC そのものに関心がある方はもちろん、Web サービスやネットワーク、セキュリティ、情報システムなどの設計・運用に関わっている方におすすめです。特に、TLS や PKI を普段利用しているものの PQC 対応はまだ具体的に検討していない方や、「対応が必要なのは分かるが、何から始めればよいのか分からない」という方に聞いていただきたいです。TLS だけでなく、VPN、SSH、DNSSEC、RPKI など、暗号技術を利用するさまざまなインターネット基盤の運用に携わる方にも、PQC 移行をどう考えるかという観点で参考になると思います。PQC に詳しくない方にも参加していただけるよう、基礎から全体像を整理する構成にしています。
●「注視する」から「何を調べるか」へ。会場での情報共有にも期待
― このセッションを通じて、どんな変化や対話が生まれるとよいと思いますか?
「PQC は今後の動向を注視しておこう」というところから一歩進んで、「では、自分たちの組織では何を調べればよいのか」と考え始めるきっかけになればと思っています。聞いた翌日にすぐ移行できるわけではありませんし、対応製品がまだ存在しない領域もあります。それでも、自分たちがどこで暗号を使っているのか、どこが重要なのか、将来どのような順番で移行するのかといった点は、今の段階から整理できます。
また、すでに検証を始めている方から「ここで困った」「この製品ではこうだった」といった情報が会場で共有されると面白いと思います。まだ正解が固まっていない段階だからこそ、運用者・研究者・ベンダーなど異なる立場の方の間で議論が生まれる場になればと期待しています。
●「不確定だからこそ」、今から情報交換と議論を
― 最後に、参加を検討している方へのメッセージをお願いします
「重要性は分かっていても、具体的にいま何をすべきなのかが見えてこない」と感じている方は多いのではないでしょうか。今回は、PQC の基礎や最新動向を追うだけでなく、TLS 1.3 という具体的な題材を通して、移行がどこまで進んでいるのか、まだ移行できない領域も含めて今から何を準備できるのかを整理します。
PQC をずっと追っている方はもちろん、「そろそろ自分にも関係してきそうだ」と感じている方も、現在地を確認する機会として気軽にご参加ください。PQC 移行にはまだ不確定な部分も多くあります。だからこそ、今のうちから情報交換や議論を始めることが重要です。ぜひ会場で、皆さんの課題や経験も共有してください。
― どうもありがとうございました
プログラム概要
プログラム名: C13 PQC 移行の現在地とこれから — TLS 1.3 から学ぶ移行戦略
日時: 2026/11/26(木)13:00 ~ 14:30
会場: KFC Hall & Rooms・ホール
講演者: 伊藤 忠彦 (セコム株式会社)
URL: https://internetweek.jp/2026/archives/program/c13

