取材に行く行かないは別として主要な国際セキュリティカンファレンスの日本からの登壇者の有無は職業柄毎回確認しているのだが日本人の名を目にすることはあまりない。
だから 2026 年の春に Black Hat Asia 2026 Briefings の登壇者リストをチェックしていて「Asuka Nakajima」という名を見つけて少なからず驚いた。ふたつの意味で。日本人研究者の名がそこにあったことだけに驚いたのではなく「この人まだやってるんだ」という目の覚めるような感覚があったからだ。Asuka Nakajima は日本で女性技術者のコミュニティを設立したことなどで知られると同時に、サイバーセキュリティに関する研究成果を国際カンファレンスなどで発表してきた実績を持つセキュリティ研究者だ。
国際カンファレンスの登壇といってもいろいろあり、所属する会社がお金を払って講演を枠として買うタイプも含まれるわけだが、Asuka Nakajima が提案した Black Hat Asia の Briefings は、多数の専門家で構成されるレビューボードによる審査が行われ、その研究に新規性や独自性があるのかどうか、研究内容そのものが審査される。
Asuka Nakajima は確かすでに Black Hat Europe の CFP に採択されて登壇しているはずで、数年前からは Black Hat USA のレビューボードの一員にもなっていたはずだ。さらに 2026 年 4 月には CODE BLUE Review Board Leader に就任している。
大雑把なたとえだが、陸上部のコーチや顧問あるいは大会委員のような立場の人が、自身も競技者として自分の脚でトラックを疾走する姿(しかも入賞できるタイムで)を見たような気がして「まだやってるんだ この人」と驚いたのだった。
前回の記事で、本誌 ScanNetSecurity の創刊からの年数にちなんで(今年 2026 年は本誌創刊 28 年)、特にその年代の若い方、あるいはその年齢にまだなっていない若い有為の読者に向けて、キャリアの参考や展望に資することを目的として、今年から『 When I'm 28 』という企画を始めることをお知らせしましたが、その第一回の寄稿者として Elasticsearch株式会社の中島明日香さんに原稿を依頼して快諾いただきました。
英語で When I'm 28 とは「わたしが 28 歳になったら」といった意味ですが、本稿は 28 歳の時に中島さんが考えて「いた」ことや挑戦して「いた」ことについて書いていただき、『 When I'm 28 』第一回の原稿として配信します。どうぞご期待ください。配信日は調整中です。
ところで「競技のコーチや顧問でもありアスリートでもある」というたとえで先程書いたものの、ここまで書いてきてまだ言い足りない気がして、最後にちょっと再考してみます。セキュリティ業界には、優秀な研究者もいれば、コミュニティの運営に尽力する人もいます。
前者は自らの技術を磨いて世界に通用する研究成果を生み出すことが求められ、後者は参加者を集めて機会を提供し、人と人をつなぎ、活動を継続させることが求められる。両者は必要とされる能力も、費やす時間も、評価される基準も異なる。もちろんどちらか一方だけでも大変に難しい。
中島明日香は 2014 年に CTF for GIRLS を設立し 2023 年まで代表を務めている。その一方で 2019 年に Black Hat Europe で IoT 機器の OEM 製品の脆弱性に関する研究成果を発表している。つまりコミュニティの運営に携わっていた時期に自らも世界の第一線に挑戦していたことになる。
CTF for GIRLS を立ち上げて、女性のセキュリティ技術者が集まり学び、挑戦するための機会を提供するだけでも十分に社会的な意義のある仕事だが、そこで中島は「支援する側」だけに収まらずに、自分自身も大変に倍率の高い国際カンファレンスの CFP に応募し、採択され、研究成果を世界に問うている。これを単に「両方頑張っている」的な表現では足りないと常々思っていた。
他人の挑戦を支援することと、自分自身が挑戦し続けることは違う。後者には、自分の研究成果が評価されないというリスクがある。経験を積み、実績を重ね、いまや他人の研究成果を審査する立場になっても、中島はそのリスクを引き受け続けている。「後進に背中を見せる」とはまさにこういうことだと思います。顧問とアスリートとは違って、コミュニティメンバーに対する対等な関係性があるとも感じ、最後に書いておきます。
それと ScanNetSecurity 創刊 28 周年キャンペーン割引も現在実施中で、これも最後に記しておきます。11 月 8 日 (日) 23:59 まで、よりお得な早期割引を行っています。

