ACCS 不正アクセス事件の公判検証レポート(3)〜第2回公判を検証〜
■「事実関係は争わない」
特集
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社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)を舞台にした不正アクセス事件で逮捕されたoffice氏(河合一穂被告)公判は、いよいよ本格的な戦いの局面へと移ってきた。6月30日に開かれた第2回公判で、弁護側が不正アクセス禁止法の適用範囲をめぐって全面的に争う陳述を行ったのである。
冒頭陳述を行った若槻絵美弁護士は、こう切り出した。
「検察官の主張の中で、その事実関係については大きな齟齬はなく、被告の行動や事実関係の有無については争わない」
検察側が提出した証拠類のかなりの分量は、office氏が取った行動についての詳細な経過や、その行動を証明する支えとなるものに費やされている。それはたとえば、ACCS側のウェブサーバのアクセスログや、office氏の勤務先だった京都大学のパソコンの差押調書などだ。office氏は事件当時、浅草のホテルに宿泊しており、ここからPHSのデータ通信カードを使ってACCSのCGIを操作し、個人情報を含むログファイルを取り出したとされている。証拠類には、このPHSカードをoffice氏から借りたことがあるという同僚教員の供述調書(これによってカードがoffice氏本人のものと判断できるということだろう)や浅草のホテルに宿泊したことを証明する報告書などというものまで含まれていた。
検察官はこれらの証拠類によって、従来の捜査と同じように、office氏の外形的な行動そのものの裏付けを証明しようとしているのである。つまり、起訴状に書かれている「2002年11月6日午後11時23分55秒から同8日午後3時47分50秒ごろまでの間、合計7回にわたり、パソコンから電気通信回線を介し、ファーストサーバ社が大阪市内に設置したアクセス制御を有するサーバに不正アクセスした」という事実を証明することが、第一の目的となっているのだ。
しかしこの行為そのものが本当に不正アクセスに当たるのかどうかという本質的な問題については、検察官は裁判冒頭の陳述でも、いっさい触れなかった。検察が公判維持を行う戦略としては、そうした問題にみずから触れる必要はいっさいないと判断したのだろう。
■不正アクセス禁止法は交通法規のようなもの?
一方、弁護人の若槻弁護士はこの外形的事実は認めたうえで、しかし「不正アクセスには当たらない」と主張したのである。
その主張は、次のようなものだ。
不正アクセスは行政法に近い性格を持っており、法律の保護する範囲については、実質的ではなく、形式的に示されていなければならない。「ネットワークの保護」という抽象概念に反することであれば、どのようなことも不正アクセス禁止法に違反しているとして処罰することは間違いであり、どのような行為が不正アクセスに当たるのかというその「形式」については、きちんと示されなければならない。
それはたとえば、交通法規でも同じである、と若槻弁護士は主張した。
「交通安全は守らなければならない」という理想(抽象概念)は存在するが、では抽象的な「交通安全を守っていない行動」についてすべて処罰するのが本当に正しいのか?
もちろん、間違っている。道路交通法などの交通法規はそうした抽象的な基準で罰するのは正しくない。あくまで「時速○キロ以上の速度を出してはいけない」「赤信号では、停止線の位置の手前で止まらなければならない」など、厳密に基準が示されている必要があるのだ。
【執筆:ジャーナリスト 佐々木俊尚】
(この記事には続きがあります。続きはScan本誌をご覧ください)
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