Dr. Web 社 CEO 来日 インタビュー(前編)
IT関連の市場ではロシアという国は、じつはあまり馴染みのない国のひとつであるかもしれない。ただし、ソフトウェア開発の実力については世界最高水準の技術力があるともされている。そんなロシアでかつてトップシェアを誇ったアンチウイルスソフト「Dr.Web」がいよいよ
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Dr.Web for Unix
http://drweb.jp/
■アンチウイルスソフト開発のスペシャリスト集団
それが2003年12月に設立された「Dr.Web社」
日本貿易振興機構の統計によると、ロシアのGDPは日本の20分の1程度であり、したがってロシアの通信市場も20分の1の規模と考えられている。日本の情報通信産業が全体で約120〜130兆円とされていることから考えると、ロシアの情報通信産業の規模はざっと考えて6兆円程度の規模であると推測される。日本を含めて、世界的には情報通信バブル、いわゆるITバブルと呼ばれる現象があったが、ロシアはITバブルの影響を受けず、1998年から緩やかなながら順調に市場規模が拡大してきているようだ。ロシアのインターネットユーザーの数も年々倍増しており、モスクワや大都市のサンクト・ペテルブルグを中心に少なく見積もっても200〜300万人、一説には900万人程度のユーザーがいるともされている。なかなか正確な統計を把握しにくく、IT関連の底力がどれほどあるのかが見えにくい感じのあるロシアではあるが、じつはソフトウェア開発においては、非常にハイレベルな技術力を有していることだけは間違いない。とりわけ、アンチウイルスソフトの開発においては世界最高水準のソフトウェアがある。そのひとつがロシアのソフト開発会社であるDr.Web社の「Dr.Web for UNIX」である。
Dr. Web社は、アンチウイルスプログラムの開発者であるIgor Daniloff氏によって2003年12月に設立された。Dr.Web社のCEOであるBoris A.Sharov氏は、自社について「ウイルスやセキュリティに関するスペシャリストの集団である」と語る。本社はモスクワ市にあるが、会社設立以前からサンクト・ペテルブルグにおいてアンチウイルスソフトの研究開発が着々と進められていた。開発者のIgor Daniloff氏が率いる開発部門は現在もサンクト・ペテルブルグ市にある。アンチウイルスセキュリティ分野に熟練した30人以上の専門家が現在も日々、Dr.Webの開発を続けているのだ。
■ロシアで90%以上ものシェアを誇ったNo.1アンチウイルスソフト
ヨーロッパ市場での評価も世界最高水準
ロシア国内でのDr.Webの採用実績はじつに幅広い。たとえば、旧ソビエト連邦時代から政府機関に採用され、現在でもロシア連邦国防省やロシア中央選挙委員会、ロシア中央銀行などへの導入実績があるほか、もう少し身近なところでは、800万以上メールボックスを擁するロシア最大のフリーメールサービス「email.ru」やロシアの検索大手「yandex.ru」のフリーメールサービスにも導入されている。つい数年前まではロシアで90%以上ものシェアを誇っていた、いわば「ロシアNo.1」のアンチウイルスソフトである。
その性能や信頼性の高さは、ロシア国内のみならず、ヨーロッパ市場を中心に世界市場でも評価されている。たとえば、英国のコンピュータウイルス専門誌「Virus Bulletin」開催のウイルス対策ソフト性能テストでは、2005年2月に世界的に知られたアンチウイルスソフトと並んで最高クラスの評価を得たほどだ。
ところが、優れた性能と高い信頼性を備えているにもかかわらず、アンチウイルスソフトの「Dr.Web」はこれまで日本市場ではあまり馴染みがなったといえる。その理由について、Boris氏は、「ロシアではソフトウェアは『製品として販売するもの』ではなく『無償で提供するもの』という意識が強くあったから」と語る。以前にはロシアでは西側諸国の作ったコンピュータソフトの導入が禁止されていた時代があった。基本ソフトもWindwosベースではなく、ロシア国内で作られた独自の基本ソフトが用いられていた。その後、ロシア経済のグローバル化、ヨーロッパ経済圏をはじめ、世界市場へのロシアの参画にともなってWindowsなどグローバルに流通していたソフトの導入が進められたという。その過程で、アンチウイルスソフトの研究開発も急ピッチで進められたが、それはあくまでも「自国内のコンピュータシステムを守るためのもの。世界市場に向けて販売することを目的とはしていなかった」(Boris氏)のだ。そのため、「Dr.Web」も、じつに15年以上もの研究開発の歴史を誇る「世界で最も古くから活躍してきたアンチウイルスソフトのひとつ」(Boris氏)でありながら、これまで日本市場はおろか世界市場でもあまり知られてこなかったのである。
【執筆:下玉利 尚明】
《ScanNetSecurity》