住民基本台帳ネットワークと個人情報の保護 ■第2回■
●住民の便益は疑問
特集
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住基ネットの導入や住基ネットの運用に際して「住民の便益」が強調されて説明されてきたが、大いに疑問である。抽象的に「住民の便益」と言われると、何か特別の利便性があるかのように誤解されてしまうが、具体的に考えれば「便益」と呼ぶに足りないものであるか、むしろ「危険」「害悪」であるとすら呼びうるものでもある。
住民基本台帳法上、住基ネット導入によってもたらされる唯一の恩典が住所地でない市町村における住民票の写しの交付請求である(12条の2)。従来、住民票の写しは住民基本台帳を備える市町村(住所地の市町村)でしか交付を受けることができなかった(12条)が、住基ネットの導入によって、他の市町村でも請求可能になったというわけである。
このように説明されると、きわめて便利になったように誤解してしまうが、冷静になって考えてみれば、他の市町村で住民票の写しの交付を受ける必要とはどれほどあるだろうか。ほとんど皆無に等しいのではなかろうか。そもそも、住民票の写しをとること自体、年に何度もあるものではない。入学試験・就職試験・資格試験の受験や免許・許認可申請などでもしない限り何年もとる機会はないし、10年も20年もとったことがない人もいることだろう。
試験や免許申請などの際に必要な住民票の写しは、緊急に必要になるものではないから、ことさら他の市町村で交付請求する必要もない。もっとも、一人暮らしで、家には夜、寝に帰るだけで、平日の昼間は遠隔地の職場に勤めているというような場合には、勤務先の市町村で休憩時間中に交付請求できるという便利さがあるかもしれない。
それでも、同居の家族がいれば、住民票の写しの交付請求は家族の資格で可能である(12条1項)し、友人等に委任して交付請求することも、郵便で交付請求することも可能だから、特段の不便さは感じない。ある市町村では、住民票の写しの宅配サービスやコンビニでの交付なども行っており、あえて他の市町村で交付請求することもない。
しかも、誰でも、他の市町村で住民票の写しの交付請求ができるわけではない。他の市町村で住民票の写しの交付を受けようとしたら、「住民基本台帳カード(住基カード)」を提示しなければならないのである(12条の2)。
常時携帯している「運転免許証」の提示でよいのなら、職場の休憩時間に、他の市町村で住民票の写しの交付を受けるのに、それなりの利便性があるかもしれない。しかし、住基カードを提示しなければならないから、住基カードを常に持ち歩いているか、あえて他の市町村で住民票の写しの交付を受けようとして住基カードをもって家を出なければならない。
【東京基督教大学教授 櫻井圀郎】
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全文はScan Security Management本誌をご覧ください。
http://www.ns-research.jp/cgi-bin/ct/p.cgi?ssm01_ssmd
《ScanNetSecurity》