工藤伸治のセキュリティ事件簿 第6回
※本稿はフィクションです。実在の団体・事件とは関係がありません※
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「相変わらず、辛口ですね。横で聞いていてひやひやしました」
R式サイバーシステムのビルを出ると沢田が言った。こいつが無口になるのは仕事の時だけだ。どうでもいい時は、どうでもいいことをしゃべりまくる。
「いいんだよ。システム屋ってのは自虐的なヤツが多いんだから、適当にプライドを立てつつ、いじめると喜ぶんだよ」
「そういうもんですかねえ。私にはわかりませんねえ。それでですねえ。見積とか、お金関係は私がやっておきますんで、後で整理したものをお渡しします。いつも通りでいいですよね?」
「いいけど、お前さあ、黙って座ってるだけで、あんなにピンハネしてオレに申し訳ないとか思わないわけ?」
「思ってますよ。いっつも君島さんには、感謝してますよお。だから、時々女の子を連れてハプニングバーで接待してるじゃないですかあ」
ハプニングバーの接待がそんなに価値のあるもんだとは思わなかった。オレは、いやみったらしく舌打ちしてみせたが、沢田はにこにこして帰っていった。
沢田と別れたオレは資料をアルバイトの連中に送った。某大手セキュリティ会社のプロにバイトしてもらっているのだ。サイバーセキュリティというと聞こえはいいが、現場のエンジニアの扱いはハッキリ言って最低だ。給料は安いし、緊急呼び出しがいつ来るかわからない。もっとも上級エンジニアや経営レベルになれば、がらっと扱いが変わって高給取りにバージョンアップする。この格差が激しいのだ。
安月給でひいひい言っている技術者に解析してもらうと、安くて早くて質のいい仕事をしてくれるわけだ。
連中には、主として「フォレンジック」と呼ばれる仕事をやってもらっている。事件が起きた時、システムに残された痕跡を調査、解析するという根気のいる仕事だ。
【註解】
システム屋というのは、地べたを這う末端の仕事であるにも関わらず、他の人間にはわかりにくい技術っぽい(あくまでも「っぽい」)仕事である。そのため、労働条件的には最底辺の仕事なのだが、なんとなく他の人間よりも利口じゃないかという錯覚を起こしやすい。そんな錯覚の中で、利口な自分が地味でつまらない仕事をしているという現実との折り合いをつけるために、不可避的に自虐的になるのだ、という説もある。
【執筆:才式】
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