工藤伸治のセキュリティ事件簿 第24回「公証人役場」 | ScanNetSecurity
2025.12.11(木)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 第24回「公証人役場」

>>第一回から読む

特集 フィクション
>>第一回から読む

オレは葛城か川口に、紙を巻く役割をやらせたかったが、二人ともやりたくなさそうで言を左右して頑なに拒否した。結局、遠山から紙を巻くのはオレの仕事になった。システム屋の連中は、こういう手を汚す詰めをやりたがらない。

オレはなじみの行政書士に公正証書を作ってもらった。この証書を遠山と一緒に公証人役場に持っていき、内容確認、押印、保管してもらえばいいのだ。

翌々日、オレと遠山は、渋谷の駅に近い明治通り沿いのドトールで待ち合わせた。オレが十分前に着くと、遠山はすでに来ていた。いつもより化粧が濃い。

「見逃してもらえませんか? 工藤さんだって、ここで公正証書を取らなくても、別に仕事に支障ないでしょう?」

オレが座ると、すぐに遠山はバカなことを言い出した。

「私、公正証書に縛られることになるんですよ。ずっとです。そんなの耐えられません。お願いです」

オレは黙って聞いていた。こういう時に言うことは、みんな同じだ。

「私、なんでもします。工藤さんの言うことをききますから…」

充血した目でオレを見る。今日の化粧が濃いのはそのためか…オレは少しだけ遠山が哀れになった。

「でないと私、工藤さんのことを恨むかもしれません」

完全な逆恨みだ。止めてくれ。でも、もっと露骨な脅しをしてくるヤツよりはマシだな。だいたい、恨むかもしれません、なんてぬるい言葉で怖がるヤツなんかいないし、嫌われたくないと思わせるほどかわいくはない。きっとこいつもかわいそうなヤツなんだよな。ろくな男とつきあったこともないに違いない。などとどうでもいいことを考えていると、携帯電話が鳴った。公証人役場からだ。

「工藤さんですか? ご予約の時間よりも早く先生が空きましたので、よろしければどうぞおいでください」

ラッキー、早くなった。オレは、遠山に、

「行っていいそうだ」

と言うと立ち上がった。遠山は座ったまま立とうとしない。

「私が逃げたら、どうなるんですか?」

遠山は床をじっと見つめたままつぶやいた。

>>つづき

《一田 和樹》

特集

PageTop

アクセスランキング

  1. ITコンサル企業、特別損失 73,000,000 円計上 ~ 連結子会社への不正アクセス受け

    ITコンサル企業、特別損失 73,000,000 円計上 ~ 連結子会社への不正アクセス受け

  2. 不審な通信ログ検知し発覚 ~ 日本ビジネスシステムズに不正アクセス

    不審な通信ログ検知し発覚 ~ 日本ビジネスシステムズに不正アクセス

  3. セキュリティイベントのヘルパーリスト、女性不在で炎上

    セキュリティイベントのヘルパーリスト、女性不在で炎上

  4. 脅迫文がサーバに保存 ~ 東海大学委託先 東海ソフト開発にランサムウェア攻撃

    脅迫文がサーバに保存 ~ 東海大学委託先 東海ソフト開発にランサムウェア攻撃

  5. 大阪急性期・総合医療センターへのランサムウェア攻撃に関する報告書「誤った閉域網神話によるセキュリティ意識の薄れ」指摘

    大阪急性期・総合医療センターへのランサムウェア攻撃に関する報告書「誤った閉域網神話によるセキュリティ意識の薄れ」指摘

ランキングをもっと見る
PageTop