工藤伸治のセキュリティ事件簿 第24回「公証人役場」 | ScanNetSecurity
2026.07.26(日)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 第24回「公証人役場」

>>第一回から読む

特集 フィクション
>>第一回から読む

オレは葛城か川口に、紙を巻く役割をやらせたかったが、二人ともやりたくなさそうで言を左右して頑なに拒否した。結局、遠山から紙を巻くのはオレの仕事になった。システム屋の連中は、こういう手を汚す詰めをやりたがらない。

オレはなじみの行政書士に公正証書を作ってもらった。この証書を遠山と一緒に公証人役場に持っていき、内容確認、押印、保管してもらえばいいのだ。

翌々日、オレと遠山は、渋谷の駅に近い明治通り沿いのドトールで待ち合わせた。オレが十分前に着くと、遠山はすでに来ていた。いつもより化粧が濃い。

「見逃してもらえませんか? 工藤さんだって、ここで公正証書を取らなくても、別に仕事に支障ないでしょう?」

オレが座ると、すぐに遠山はバカなことを言い出した。

「私、公正証書に縛られることになるんですよ。ずっとです。そんなの耐えられません。お願いです」

オレは黙って聞いていた。こういう時に言うことは、みんな同じだ。

「私、なんでもします。工藤さんの言うことをききますから…」

充血した目でオレを見る。今日の化粧が濃いのはそのためか…オレは少しだけ遠山が哀れになった。

「でないと私、工藤さんのことを恨むかもしれません」

完全な逆恨みだ。止めてくれ。でも、もっと露骨な脅しをしてくるヤツよりはマシだな。だいたい、恨むかもしれません、なんてぬるい言葉で怖がるヤツなんかいないし、嫌われたくないと思わせるほどかわいくはない。きっとこいつもかわいそうなヤツなんだよな。ろくな男とつきあったこともないに違いない。などとどうでもいいことを考えていると、携帯電話が鳴った。公証人役場からだ。

「工藤さんですか? ご予約の時間よりも早く先生が空きましたので、よろしければどうぞおいでください」

ラッキー、早くなった。オレは、遠山に、

「行っていいそうだ」

と言うと立ち上がった。遠山は座ったまま立とうとしない。

「私が逃げたら、どうなるんですか?」

遠山は床をじっと見つめたままつぶやいた。

>>つづき

《一田 和樹》

特集

PageTop

アクセスランキング

  1. Docker 設定とルータ不具合が原因 ~ ワサビの開発環境端末に不正アクセス

    Docker 設定とルータ不具合が原因 ~ ワサビの開発環境端末に不正アクセス

  2. 日本大学の学生・卒業生 9 名のアカウントに不正アクセス、スパムメール送信の踏み台に

    日本大学の学生・卒業生 9 名のアカウントに不正アクセス、スパムメール送信の踏み台に

  3. 富山県立大学の Microsoft 365 学生アカウントから大量の迷惑メール送信

    富山県立大学の Microsoft 365 学生アカウントから大量の迷惑メール送信

  4. 海上ヘリ基地反対協議会に「極めて悪質なサイバー攻撃」 他団体の問合せフォーム悪用で大量自動返信

    海上ヘリ基地反対協議会に「極めて悪質なサイバー攻撃」 他団体の問合せフォーム悪用で大量自動返信

  5. ランサムウェアの主因は ID 侵害 ~ ソフォス「ランサムウェアの現状2026年版」

    ランサムウェアの主因は ID 侵害 ~ ソフォス「ランサムウェアの現状2026年版」

ランキングをもっと見る
PageTop