工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン2「V-CRY」 第3回「V-CRY」
※本稿はフィクションです。実在の団体・人物・事件とは関係がありません※
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「メールマガジンの登録者は66万人です。PC利用者が12万人。54万人が携帯利用者です」
相沢は資料を見ながら、つぶやくように説明した。
「携帯利用者多いな…」
「誘導されたサイトには、ウイルスの危険性について、説明が書いてあります。これが携帯電話向けの画面です」
相沢はプロジェクタでその画面を壁に映した。
そのページには、オサイフケータイから金が盗まれるとか、友達に偽メールが送られるとか、保存している画像がネットにばらまかれるとか、いい加減なことが書いてあった。ちょっとわかってる人間なら、でたらめだとわかる。だいたい携帯ウイルスそのものが、そんなに存在していないのだ。
「露骨なウソだな」
オレは、あまりにでたらめな説明にあきれながら言った。
「ええ。しかし携帯利用者には、ウイルスに関する基本的な知識を持っていない人もいるようで、だまされてしまう人も多いようです」
相沢は軽くうなずくと、別の画面を表示した。さらにひどいウソが書いてあった。『V-CRY』は、最新の技術で携帯電話も無料オンラインスキャンして、すぐに結果が出ると書いてある。もちろん、オンラインスキャンなんかしないで、ちょっと待たせた後で、ウイルスに感染してます、と表示して利用者を脅かすのだ。
「わかりやすいウソだな。それで、アレだろ。ウイルスが見つかったから、駆除しないと大変なことになりますとか、有料ソフトを買えとか出るって、典型的な偽アンチウイルスソフト詐欺だ」
「ご存じでしたか…」
「数年前からはやってるよ。知らない方がどうかしてる。あんた、知らなかったの? 知らなかったではすまない話だと思うんだけどなあ」
オレが言うと、相沢が露骨にいやな顔をした。オレは言い過ぎたかと少し反省した。こういう無知な客がいい客なのだ。怒らせちゃいけない。
「まあ、一般にはあまり知られてないかもね」
オレはさりげなく、フォローしてやった。システム関係者は、妙にプライドが高いヤツが多いので気配りは欠かせない。
「こちらこそ、失礼しました。被害者の対応は、いくつかに分かれます。ひとつは、そのまま購入してしまうパターン。ひとつは、購入しないで自分で対策を調べるパターンです。自分で対策を調べた方の中には、これはおかしいと気がついた人も多いと思います。弊社に、あやしい広告が入っていると、ご連絡いただいた方もいます。ただ、おかしなブログがあるんです。偽ウイルスの名前で検索すると、そのブログが上位に表示されてしまうんです」
「ブログってなに?」
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《ScanNetSecurity》