2011年に整備されたサイバー法を振り返る | ScanNetSecurity
2020.08.12(水)

2011年に整備されたサイバー法を振り返る

今年の6月17日に国会で「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が可決、成立し、6月24日に公布された。

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今年の6月17日に国会で「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が可決、成立し、6月24日に公布された。

この法律はもともと、日本も2001年11月に署名した欧州評議会のサイバー犯罪条約の批准にともなう国内法整備のためのものである。実はこの法律は2004年2月に国会(第159回)に「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」として提出されていたものの焼き直しである。当時この業界でも結構話題となったので、その時の議論を覚えている人も多いと思う。

しかし、その時の法案は共謀罪の創設と一緒にされたため、国会ではそちらの方が主に与野党間で対立し論議を呼び、審議が難航、2009年の通常国会閉幕とともに審議未了で廃案になってしまった。今回、以前提出された法案から問題となった共謀罪のところを切り離し、今年4月1日に新しい法案として通常国会に提出された。ちょうど東日本大震災の後だったため、どさくさまぎれに提出されたインターネット規制法案ではないか、と一部メディアやネット上でも論議されたが、そうではない。

インターネットの関係者に影響がある改正法の中身は大きく分けて2つに分けられる。ひとつは「実体法の整備」と言われる、新たな犯罪の新設である。それには、コンピュータ・ウイルス作成・供用罪の他、わいせつ物頒布罪に電子メールでの画像の送信を対象として追加したことと、DDoS攻撃を想定して、電子計算機損壊等業務妨害罪に未遂を規定したことである。

もうひとつは「手続法の整備」と言われる、インターネット犯罪で差押えをするときの方法の整備である。従来の刑事訴訟法の手続きでは、事件に係わるコンピューターそのものを差押えするのが原則であった。しかし、インターネット犯罪が日常に起こっている昨今、事件の捜査で毎回サーバなどを差押えられていたのではホスティング会社やサービス提供会社はたまったものではない。最近はどのプロバイダもサーバを差押えられたという話を聞かないので、従来からコンピュータそのものの差押えに代えて、データをCD-R等に焼いて捜査当局に提出するようなことは現場の実態だったのではかろうか。とすれば今回の法律はそれを実情に合わせて追認したに過ぎない。したがって、ISPやホスティング事業者などインターネット関係のサービス事業者にこれにより新たに負担が生じるとは思えない。

同様に記録命令付差押えの新設も、プロバイダ等の協力者を想定して新設されたものであり、必要なデータのみをCD-R等に焼いて提出すれば足りるものである。しかも罰則はなく、かつそれが本物と同一であることを証明する必要もない。サーバの実際の所在地が海外などにあることが当たり前の今日、海外のサーバを物理的に差押えすることは、捜査当局にもほぼ不可能であり(現地の捜査当局の協力があれば別だが)、代わりに必要なデータのみをCD-Rで提供してもらうのはインターネットの実態に沿ったものであるといえる。

ログの保全要請については、プロバイダに対し通信ログを最長60日まで保全要請できるとするものである。これはプロバイダにログを常時60日分保存することを要求するものではない。捜査当局から要請があってから、そのログについては60日間は保全し、消去しないでおくというものであって、そもそも新たにログの保存を要求するものではない。ログは今あるもので足りるから新たな負担は少ないのではないだろうか?2004年の法案のときは最長90日分だったが、今回は60日分に短縮された。ただし、通信ログの保存義務は別なところで議論されているようなので、そのうちに別方面から動きがある可能性はある。

法改正にともない新設された「不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪)」についても、2004年当時から議論がされてきた。大方の関心はバグを出したプログラマは逮捕されるのか、というようなものだった。今回の法律審議の過程でも国会でも同様な質問が出された。これについては法務省が「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」というドキュメントを出して詳しく解説しているので、それを読めば大方理解できる。そもそもこの法律は故意犯を処罰するものなので、故意でないものは処罰されない。特に普通のプログラマの人が気を付けなくてはならないようなことはない。もしバグがコンピュータ・ウイルスのような動作をするもので、それを人から指摘されても、他人に害を加えようと考えて、あえて放置するようなことでもない限り、バグで処罰されるようなことはないと思われる。

同様にコンピュータ・ウイルスの研究者などが検体を研究仲間に送付する行為も、相手をだまして感染させるような目的でなければ特に処罰されるようなことはないと思われる。

法務省のホームページにこの法律の説明やQ&Aがあるので参照されると役に立つと思う。

情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00025.html

なお、11月30日から12月2日にかけて、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)主催で、インターネットにかかる技術者を主な対象とした、「Internet Week 2011~とびらの向こうに~」が、秋葉原の「富士ソフトアキバプラザ」で開催される。開催2日目の12月1日午前のプログラム「押さえておきたいインターネット法2011」にて、本件に関わる講演がなされるので、あわせて参考にされたい。

●アジェンダ
「S6 押さえておきたいインターネット法2011」
開催日時:2011年12月1日(木) 9:15~11:45
料金:事前料金 \5,000/当日料金 \7,000

9:15~10:05
1) 情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律について
くのぎ 清隆(法務省刑事局)

10:05~10:55
2) 不正アクセス等の現状と不正アクセス防止対策に関する官民意見集約委員会(官民ボード)の取り組み
人見 友章(警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課)

10:55~11:45
3) クラウドコンピューティングと著作権
講演者: 岡村 久道(英知法律事務所/国立情報学研究所)

(木村 孝)

木村 孝(きむら たかし)
1983年 東北大学法学部卒業
1986年 エヌ・アイ・エフ株式会社(現ニフティ株式会社)入社
ニフティ株式会社 開発推進室 担当部長
社団法人日本インターネットプロバイダー協会 会長補佐
同 NGN-WG主査 行政法律部会 部会長
2009年よりInternet Weekプログラム委員

《ScanNetSecurity》

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