オープンガバメントの哲学と脆弱性への対応策、一田氏論考へ寄せて 前編 | ScanNetSecurity
2026.01.03(土)

オープンガバメントの哲学と脆弱性への対応策、一田氏論考へ寄せて 前編

氏が挙げた「三つの脆弱性」は、政治におけるインターネットの利用が今後も一層拡大し深化することが不可避である以上、避けて通れない重要な問題提起である。

特集 コラム
9月11日、18日にScanNetSecurityに掲載された、「オープンガバメントに潜む三つの脆弱性」一田和樹氏の論考はオープンガバメントと呼ばれる、一連の改革の中で、インターネット投票に焦点をあて、その問題点(脆弱性)について論じている。氏が挙げた「三つの脆弱性」は、政治におけるインターネットの利用が今後も一層拡大し深化することが不可避である以上、避けて通れない重要な問題提起である。

以下、一田氏の論考についてコメントしていきたいが、まずは、オープンガバメントの意味について、補足して論じたい。なぜならば、このオープンガバメントの「哲学」を理解しなくては、オープンガバメントが単なる技術的な問題に矮小化され、「脆弱性」への対応が、オープンガバメントの意義を損なうものとなってしまう可能性があるからである。

先走りして述べておこう、オープンガバメントの最も大きな意義は「政府(ガバメント)」の改革を通じた「統治・協治(ガバナンス)」の改革という点にある。

1.オープンガバメントの「哲学」

オープンガバメントは世界的な潮流となっている。国際的な推進組織である「オープンガバメント・パートナーシップ」にはアメリカなど欧米諸国のほか、エチオピアなどの途上国まで含まれ、世界55か国が参加している(日本は未加盟)。

先進国がオープンガバメントを推進する理由をみてみると、各国共通の背景が見えてくる。それは、少子高齢化や、人々のライフスタイルの変化、テクノロジーの進展などによって、「公(おおやけ)」が応えなければならない課題が多様化・複雑化しているにもかかわらず、政府は財政難に悩まされ、十分に応答できていないという現実である。各国の世論調査から垣間見られる人々の政治への不信・欲求不満は、そうした事態を反映しているといえるだろう。

オープンガバメントの主導者である、ティム・オライリーは、「自動販売機としての政府」、つまりお金(税金)を投入すれば、公共サービスが出てくるという考えは限界にきていると指摘する。代わりにオライリーが提唱するのは「プラットフォームとしての政府」である。これは、政府が持っている様々な情報を利用しやすい形で設置して、人々が主体的に、このプラットフォームを通じて、新しい公共サービスを作り出すというものである。

例えばアメリカ連邦政府の「Date.gov」では3万以上のデータセットが公開されているが、先進各国では、統計情報、地理・空間情報、あるいはデータを読み込むためのAPIが公開され、民間で活用されている。そして、様々な「民間発」公共サービスが生まれている。

これが冒頭に述べた「ガバメントの改革によるガバナンスの改革」という意味である。したがって政府部門の効率化・利便性向上という観点から主として論じられていた「電子政府論」とは、また異なる文脈であることに注意が必要だろう。

この「プラットフォームとしての政府」としての思想は、小さな政府を主張するフリードリヒ・ハイエクの「ガーデナー(庭師)としての政府」、あるいは逆の、中道左派であるアンソニー・ギデンズの「条件整備型政府」の思想にも通じるものがある。

いずれにしても、肥大化・多様化する「公」への要求と政府の限界が意識されるなかで、思想も見直され、政府の役割の転換として「オープンガバメント」が進んでいるのである。

ただ日本ではオープンガバメントの歩みが遅いことは事実である。その原因は、このような「政府の思想」の転換という意味が、十分理解されていないからかもしれない。このままでは単なる「電子政府」の焼き直しに終わり、一田氏の指摘の通り、影響力のないものに終わるかもしれない。今まさにその瀬戸際と言えるだろう。

2.インターネット直接投票とオープンガバメント

このような観点に立てば、一田氏が挙げられているインターネット直接投票は、必ずしも「オープンガバメント」の中心とは言えないことがわかる。オープンガバメントを積極的に推進しているオバマ大統領もインターネット直接投票までは推奨していない。インターネット直接投票を実現しているのは、今のところエストニアぐらいである。

「民意」と「政治」という観点からいうと、オープンガバメントという文脈で重要なのは、インターネット直接投票ではなく、次の二つの点が重要になってくる。

第一に、参加型民主主義の拡大である。選挙を通じて、政治家に地域の問題解決をお願いするのではなく、公共機関のオープンデータを利用して、市民自らが問題解決を図ることは、広い意味での政治への市民参画拡大と捉えることができるだろう。

第二に、既存の代表制民主主義の強化である。有権者の得る情報を多様にしたり、有権者と候補者の関係をより近いものにする事によって、選挙を通じた間接民主制の正当性を強化していくという点である。(因みに『統治を創造する』の拙稿「eデモクラシー2.0は日本を変えるか」では、この二つの民主主義がsnsを通じて融合する可能性を論じている。興味のある方はぜひお読み頂きたい。)

一田氏は、インターネット直接投票の脆弱性について指摘しているわけであるが、このような傾向に対してもまた、有効である。そこで、一田氏の指摘を「ネットと政治」という大きな問いの中で再配置し、その中から、重要な論点を抽出し、論じて行くことにしよう。それはすなわち、1,ネットにおいて、「民意」を定義することの困難、2.ネット世論により、政治はより場当たり的・短視眼的になってしまう。3.不正や妨害工作が容易になるというものである。以下、後ろの3からコメントして行くが、ここでもまた、結論から先に述べておくことにしよう。一田氏の指摘する「脆弱性」への対応は、「壁」ではなく「整流器」のようなものでなければならない。

(谷本晴樹)

筆者略歴:財団法人尾崎行雄記念財団主任研究員、ICTを活用した地域活性化から自治体の情報化、民主主義の問題まで幅広く執筆、主な著書に「統治を創造する(共著、春秋社 2011年)」

《ScanNetSecurity》

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