LTE-Advancedに対応する静止衛星を活用した通信システムの試作開発が進行、災害時により強いネットワークとして期待(ソフトバンク) | ScanNetSecurity
2024.05.05(日)

LTE-Advancedに対応する静止衛星を活用した通信システムの試作開発が進行、災害時により強いネットワークとして期待(ソフトバンク)

ソフトバンクがLTE-Advancedに対応する静止衛星を活用した通信システムの試作開発を進めているという。記者説明会にて詳細を取材した。

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研究開発本部の國信健一郎氏
研究開発本部の國信健一郎氏 全 12 枚 拡大写真
 ソフトバンクがLTE-Advancedに対応する静止衛星を活用した通信システムの試作開発を進めているという。近い将来に実現すれば災害時により強いネットワークとして、あるいは地上ネットワークのエリアカバーをさらに広げる通信サービスとしての役割が期待できる。9日に開催された記者説明会にてその詳細を取材した。

 今回発表された技術はソフトバンクの地上LTEネットワークのほかに、高度約36,000kmを超える上空・宇宙に打ち上げられた静止衛星を活用した「衛星LTEシステム」を構築しようとするものだ。同社の地上LTEネットワークはすでに約9割強を超える全国エリアカバーを実現しているのにもかかわらず、なぜいまコストをかけて新たなネットワークシステムをつくる必要があるのだろうか。開発を押し進める研究開発本部 本部長の國信健一郎氏がその理由を次のように説いている。

「2011年に東日本大震災が発生した際にネットワークの大規模喪失があり、その復旧に多大な時間がかかった。当時衛星を使った伝送路によりネットワークを復活させた経緯があり、その経験を土台にして災害時にも強い衛星システムの構築が必要と考えた」

 つまり、その第一義的な役割は災害時の通信環境を確保するためのものであるようだ。ソフトバンクは衛星LTEシステムの試作開発を2014年の10月から本格的にスタートした。開発を進めるに当たり、打ち立てられたコンセプトと見えてきた課題、そして今日段階での完成度についてなど技術の詳細は、研究開発本部の特別研究室長である藤井輝也氏が説明した。

 衛星を利用した通信システムの試作は、現在地上で利用されているLTE-Advancedと同一の通信規格を用いることが基点となった。その理由は「将来は一般的に使われているスマートフォンなどの通信端末に組み込み、災害時などに役立てることが前提。衛星用の特別な端末を作ってしまうと、いざというときに広く役に立たないから」だと藤井氏は説く。またもう一つ「3GPPにより標準化されたLTE/LTE-Advancedの技術を基盤にしておけば、この先10年単位の将来に訪れる規格や技術のアップデートに対しても柔軟に対応しやすい」ことも理由だという。

 ソフトバンクでは衛星LTEシステムの開発を独自に練り上げ、2014年の6月に実験免許を取得して以来、東京のお台場地区でフィールド検証を重ねてきた。今回、地上のLTE通信システムとの親和性を確保した衛星LTEシステムの試作が一定のレベルに到達したことから、記者に向けたデモンストレーションの機会が設けられた。

 当システムに対応する衛星はまだ存在していないため、実験ではLTE-Advancedに対応する衛星基地局回線に見立てたエミュレーターを用意。実際の衛星通信の場合、高度36,000kmの宇宙空間に漂う静止衛星との間の長い距離を電波が往復するため、約0.5秒の伝搬遅延が発生する。これが通信エラーの原因にならないよう、試作されたシステムでは既存プロトコルの仕様には手を加えず、パラメータの値だけをチューニングすることで、わずかな遅延はあるものの安定した通信を実現した。

 試験環境ではお台場の上空に衛星環境を見立てた中継局代わりの気球を飛ばし、先ほどの衛星基地局に見立てたエミュレーターと、模擬的な地上基地局間のトライアングル環境で試作端末による伝送実験を行った。衛星回線への電波はエミュレーターを使って3.3GHz帯で飛ばし、気球から地上基地局にはSバンドの実験周波数で送り出している。一方、ハイブリッドで対応する地上LTEシステムからはSバンドの電波をダイレクトに飛ばしている。

 今回試された項目は3つ。ひとつめの「ビデオ通話」では、衛星回線を介した状態でも、音声・映像ともにわずかな遅延で安定した通信が行えることが確認された。ふたつめには地上エリアから衛星エリアに移動した際のハンドオーバーを検証。それぞれがスムーズに切り替わるデモが体験できた。最後に実際のスループットの速度も計測されたが、衛星システムの場合でも下り約2Mbps、上り約100kbps~200kbps程度のスループットが出せることも証明された。

 今回試作された受信用端末はデータ通信に特化している。サイズは文庫本ぐらいで、受信感度を上げるため本体の左右から利得の高いアンテナユニットを引き出し、さらに受信状態を安定させるため電波が吹いている方向に本体を向けて置く必要もある。現時点ではいかにもポータビリティは低そうだし、そもそもソフトバンクが目標としている「一般の人々が使えるような通信端末」とはほど遠い仕様だが、同社の最終的な狙いはあくまでスマートフォンなどの端末で、データ通信だけでなく音声通話も可能にすることであり、そのための未来図をいま入念に描いているのだと藤井氏は強調する。

 シミュレーションでは一つの静止衛星で日本全国を20~30のエリアに分割して複数のビームでカバーする計画だという。また衛星LTEシステムを災害対策としてだけでなく、平常時にも地上ネットワークだけではカバーしきれない山間地域など、難受信エリアにLTE網を行き届かせるためのソリューションとして活用できるようにしたいと藤井氏は意気込みを語っている。

 ソフトバンクでは今回成功した実証実験のデータも糧にしながら、技術をさらに練り上げていく考えだ。ただ同社の説明を聞きながら、一方ではじゃあ静止衛星自体はどうするのかという疑問にも突き当たる。ソフトバンクの担当者は「衛星をどのように打ち上げるか」、そして「衛星の周波数をどのように割り当ててもらうか」という2つの大きな課題がこの先の将来に横たわっているのだと打ち明ける。また「衛星を上げること自体、ソフトバンクが単独でできないことではないが、静止衛星の利用は国家が決定する権益。隣接国も含めた調整が必要になる問題なので、現時点でスケジュールの見通しを立てることは難しい。総務省との調整も継続して行っていきたい。そもそも公共的な通信サービスに関わる問題なので、日本だけでなく他国のキャリアとも協調しながら進めていくべきサービス」と考え方を述べた。

ソフトバンク、災害時にも強い「衛星LTEシステム」の試作実験を公開

《山本 敦@RBB TODAY》

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