「超限戦」時代、軍事大国アメリカの迷走 - 書評「大統領失踪」 2ページ目 | ScanNetSecurity
2024.04.25(木)

「超限戦」時代、軍事大国アメリカの迷走 - 書評「大統領失踪」

アメリカは世界有数のサイバー攻撃に弱い国家だ。

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ビル クリントン, ジェイムズ パタースン著「大統領失踪 上巻」早川書房刊
ビル クリントン, ジェイムズ パタースン著「大統領失踪 上巻」早川書房刊 全 1 枚 拡大写真
 第一にインターネットがあらゆる分野、レベルに普及しているため、サイバー攻撃を受けた時、あらゆる分野、レベルに影響がおよぶ。もちろんそこには基本インフラである電力や水も含まれる。世界をリードするネットワーク国家であるがゆえに、ネット依存度が高く、それがそのまま脆弱性につながっている。ネットが死ぬ時はアメリカも甚大な被害を被る。

 第二に、最新であるがゆえにセキュリティ技術も体制も追いついていない。日本ではアメリカのサイバーセキュリティ技術は世界最強と思い、政府関係機関および民間サイバー軍需企業は他国の追随を許さないシステムを構築しているという幻想を持っている人が少なくないが、実際にはその逆でアメリカを上回る技術やシステムを持つ国や組織は存在する。過去にアメリカ政府機関は何度も苦汁をなめている。

 世界最強であったアメリカは新しい時代に入り、ずるずるとその地位を失いつつあるのだ。本書の背景にはアメリカの置かれた難しい現実がある。さらにその背景には、自由主義と民主主義の形骸化と崩壊がある。

 その意味ではアメリカが未知のテロリストの仕掛けるサイバー攻撃で未曾有の危機に陥るという話はあり得ないことではない。

 とはいえ本書は一般の読者に向けて書かれたものなので、あまり専門的な内容には立ち入ってないし、随所に専門用語の解説が挿入されている。また、攻撃方法や攻撃のシナリオも比較的わかりやすいものに絞られている。

 そのためサイバーセキュリティに詳しい方にはいささか物足りなさを感じるかもしれない。また登場するハッカーの描き方や役割分担も首をひねる箇所がある。読んでいて、「そうか! そんな手があったか」と驚くことや、「そんな攻撃シナリオは初めて聞いた」ということはない。あくまでもわかりやすいシナリオの範囲に収められている。サイバーセキュリティとは無縁の一般の読者にとっては初耳のことも多いと思うのでエンターテインメント小説としての瑕疵ではない。

 本書の見所はなんと言ってもビル・クリントンの大統領時代の経験に裏打ちされたホワイトハウスの内情であろう。核ミサイル発射ボタンが実際にどのようなものなのかとか、状況分析室の装備、秘密の通路など。どこまで本当かわからないが、本当らしく見える。下院議長、副大統領、補佐官などとの関係も生々しい。

 そのリアリティをベースにテロリストの追跡、大統領弾劾をもくろむ下院議長との交渉、側近の裏切り、謎の女殺し屋、各国首脳との極秘会談など矢継ぎ早に物語は展開し、息つく暇がないエンターテインメント小説に仕上がっている。週末に肩の力を抜いて読むには最適の本と言えよう。

 ”失踪した”大統領と鍵を握るハッカーは無事に会うことができるのか? 会ったとして果たしてサイバー攻撃を防ぐことができるのか? 大統領とハッカーは会うことができるのだが、それは長い戦いのほんの始まりに過ぎないのだ。次々と新事実、新事件が出てきて読む手を止めることができない。
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《一田和樹( Kazuki Ichida )》

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