首都直下地震70%時代のBCP再設計 | ScanNetSecurity
2026.09.04(金)

首都直下地震70%時代のBCP再設計

 田丸氏は冒頭、オンプレミス環境とクラウド環境の間にある非対称性を指摘した。オンプレミスであれば、災害発生後に現地にたどり着いて、電源さえ確保できれば、限定的とはいえ復旧の見込みが残る。一方でクラウドの場合、データセンター自体がどれほど堅牢であっても、そこへ至る通信経路が途絶えれば手も足も出ない。

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 政府の地震調査研究推進本部は、首都直下地震が今後30年以内に発生する確率を約70%としている。これは「いつか起きるかもしれない」ではなく「いつ起きてもおかしくない」という切迫した確率である。

 今春開催されたInterop Tokyo 2026の専門セミナー「激甚災害シナリオと情報システム~30年以内の首都直下地震が70%、どうする?~」では、デジタル庁、日本マイクロソフト、NTT東日本の3氏が登壇し、災害時にクラウドや通信インフラがどこまで機能を維持できるのか、企業はどう備えるべきかを議論した。

 セッションの司会を務めたのは、デジタル庁 ネットワーク エンタープライズ ユニット ユニット長 ガバメントソリューションサービス 技術統括 田丸健三郎氏である。田丸氏は2019年5月から政府CIO補佐官を兼務し、2021年9月からはデジタル庁のプリンシパルソリューションアーキテクトも兼務、行政のデジタルトランスフォーメーションやシステムのモダナイゼーションを技術面から支えてきた人物だ。

デジタル庁 ネットワーク エンタープライズ ユニット ユニット長 ガバメントソリューションサービス 技術統括 田丸健三郎氏

 田丸氏は冒頭、オンプレミス環境とクラウド環境の間にある非対称性を指摘した。オンプレミスであれば、災害発生後に現地にたどり着いて、電源さえ確保できれば、限定的とはいえ復旧の見込みが残る。一方でクラウドの場合、データセンター自体がどれほど堅牢であっても、そこへ至る通信経路が途絶えれば手も足も出ない。低軌道衛星(LEO)やHAPS(成層圏プラットフォーム)といった新しい通信手段の研究開発が進む背景にも、この課題がある。

 オフィスのメールやチャットが数日使えない、在宅勤務者がVPN経由で業務システムに接続できない。こうした身近な障害の先には、社会生活そのものが止まるという事態が控えている。

 この点を被災者側の視点から語ったのが、NTT東日本株式会社 防災研究所 所長 笹倉聡氏である。1997年にNTT東日本へ入社し、電気通信設備の構築・運用に携わった後、2010年にNTT持株災害対策室へ異動、2011年の東日本大震災ではNTTグループ全体の復旧統制を担い、政府緊急災害対策本部対応の最前線に立った実務者である。東京2020大会でのNTT東日本対策本部統括リーダーやNTT東日本災害対策室長を経て、2025年4月から現職に就いている。

 笹倉氏は「ほぼ全ての社会インフラ事業が通信または情報システムの上に成り立っていると言っても過言ではない」と述べ、通信インフラの障害は単なるシステム障害にとどまらず「社会生活そのものが途絶されるリスクを持つ」と続けた。本稿では、政府・クラウド事業者・通信事業者という3つの立場から語られた対策を、それぞれ順に紹介する。

● デジタル庁:制度と業務基盤の両面から国を支える

 デジタル庁 ネットワークエンタープライズユニット サブユニット長(エンタープライズ) 猪原和也氏は、まず国の災害対策制度の骨格を解説した。

 同氏は国内SIerや外資系IT企業でシステム開発・技術支援・プロジェクトマネジメントを経験した後、2019年以降は教育・若者就労支援分野のICT推進や、最高裁判所専門官として裁判のDXにも携わった経歴を持つ。2025年にデジタル庁へ入庁し、現職に就いている。

 昭和37年(1962年)に制定された激甚災害法に基づいて、災害は全国規模の「本激」と、それに該当しない「局激」が区分される。災害対策本部は「特定」「非常」「緊急」の三段階で設置され、「緊急災害対策本部(内閣総理大臣が本部長)」が設置された事例はこれまで東日本大震災のみだという。2024年の能登半島地震では「非常災害対策本部」が設置され、設置期間は2年以上に及んだ。

 また、東京23区で震度5以上、23区以外で震度6以上、または大津波警報の発表があれば、指示系統を待たずに独自に参集できる「自動参集トリガー」が定められており、内閣府をはじめ、国土交通省、警察庁、気象庁、消防庁、海上保安庁、厚生労働省、防衛省など防災に関係する各省庁は、局長級の担当者をあらかじめ指定し、災害発生時に指示を待たず即応できる体制を平時から維持している。

 国は2021~2025年度の5か年で約15.6兆円(国家予算約120兆円の約1割強に相当、うち国費は約8兆円)を防災・減災対策に投じており、2026年度以内の設置を目指す「防災庁」も国会審議に入っている。

 こうした制度面の説明に続き、猪原氏は自身が担当する政府職員の業務基盤「ガバメントソリューションサービス(GSS)」を紹介した。ゼロトラストアーキテクチャを前提に、光ファイバー・全国ネットワーク・モバイル回線をフル活用して冗長化されており、テレワーク実施可能率は100%に達する。なお、テレワーク実施可能率とは、出社が困難な有事の際にいつでも在宅で業務を継続できる環境が、GSS導入済み省庁でどれだけ整備されているかを示す比率のことである。GSSの拠点数・ユーザー数の伸びも著しく、令和5年度末(2023年度末)の1,300拠点・3.5万ユーザーから、直近では3,100拠点・約13.4万ユーザーへと大幅拡大した。

 能登半島地震では、マイナンバーカードを用いた罹災証明書のオンライン申請、石川県・志賀町とデジタル庁・防災DX官民共創協議会が連携したSuicaによる避難者情報の把握、石川県主導で現在も構築が進む被災者マスターデータベース、そしてスターリンクによる通信確保が実際に機能した。

 デジタル庁自身の評価としても、「能登半島地震での経験により、省庁共通のネットワーク環境として導入中のGSSが、平時の情報共有はもちろん、災害時の現地本部等での対応に際しても業務継続やコミュニケーション円滑化の観点から有効であることがわかった」との総括がなされている。

《高橋 潤哉( Junya Takahashi )》

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