リーガルテック国内第一人者、佐々木隆仁社長の「事業成長2つのポイント」 | ScanNetSecurity[国内最大級のサイバーセキュリティ専門ポータルサイト]
2019.07.20(土)

リーガルテック国内第一人者、佐々木隆仁社長の「事業成長2つのポイント」

本年5月、時代は令和に変わった。平成の30年は多く、「失われた30年」と振りかえられることが多い。佐々木氏は「一言でいえば、日本の大切な知的財産や個人情報などの機密情報が流出した30年だった」と看破する。それが国際競争力を失わせることにつながったのだと。

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「マーケットを新たに作り、そこで自分自身がマーケットリーダーになることが重要」リーガルテック株式会社 代表取締役社長の佐々木 隆仁 氏
「マーケットを新たに作り、そこで自分自身がマーケットリーダーになることが重要」リーガルテック株式会社 代表取締役社長の佐々木 隆仁 氏 全 1 枚 拡大写真
 リーガルテック(Legal Tech)とは、法律・法務を意味する「Legal」と、「Technology」を組み合わせた領域横断技術の一つで、法律や司法をテクノロジーで支援・革新する取り組みのことである。「データ復旧」「フォレンジック」「eディスカバリ事業」で独自の存在感を発揮するリーガルテック株式会社は、日本のリーガルテックの草分け的存在だ。

 今回編集部は、リーガルテック株式会社 代表取締役社長の佐々木 隆仁 氏に、現在も成長をもたらしつづける同社旗艦製品「データ復元ソフト ファイナルデータ」を生み出した逆転の発想、バーチャルデータルーム(VDR)ビジネスに可能性を見出したきっかけ、そしてリーガルテックの今後の可能性などについて話を聞いた。


データ復旧に無限のビジネス機会を見いだす

 ビジネス活動のデジタル化が進むなか、デジタルデータは改ざんが容易であるため、データの原本性を担保するテクノロジーはますます重要になっている。

 企業で不祥事や不正が起きたときの「証拠保全」、調査分析などの「フォレンジック」、「データ復元」などの領域をテクノロジーで革新する「リーガルテック」という用語を日本で初めて使ったのが私たちだ、と語るのが佐々木氏だ。

 「リーガルテック株式会社の設立は2012年、そのだいぶ以前からリーガルテックという言葉を使って、普及啓発に努めてきました(佐々木氏)」

 佐々木氏は大学卒業後、国内の大手コンピューター会社で、ソフトウェア開発エンジニアとして働き、「データが絶対消失しない」コンピューターの開発プロジェクトに携わった経歴を持つ。

 インターネットの本格普及以前に、将来のネットワーク社会を見すえ「中核となるコンピューターのデータの消失を防ぐテクノロジーをゼロから開発しようと」取り組んだ。しかし、製品化にはこぎつけたものの、期待したようなビジネスを作るには至らなかった。

 佐々木氏はその後、1995年にAOSテクノロジーズ株式会社を設立したが、起業のきっかけは、このときの経験がもとになっている。

 自分自身、「データが消失した」経験が何度もあったという佐々木氏は、起業に際し、大事なデータが消えて困っている人がどの程度いるかをアンケート調査したという。すると、一般ユーザーで約8割、システムエンジニアにいたっては9割以上の回答者が、大事なデータを消失した経験があることがわかったそうだ。

 技術的には、データはあとから復元可能である場合が多い、しかし多くの人が泣き寝入り状態にあることを知った佐々木氏は、データ復元という巨大なブルーオーシャンの存在に気づく。そして、データ復元ソフト「ファイナルデータ」を2000年にリリース。同ソフトは20年近くたった今も、市場ナンバーワンのシェアを誇る人気ソフトだ。

再び見いだしたブルーオーシャン

 リリースすると、データ復元に意外なニーズがあることに気づかされた。それは警察などの法執行機関からのデータ復元の依頼だ。

 「犯罪の証拠となるデータを捜査機関が押収しようとしても、デジタルデータは容易に消去されてしまう。それを復元するにはどうしたらよいかという問い合わせを、ファイナルデータを発売するとすぐにいただくようになりました(佐々木氏)」

 いったい何の巡り合わせか。それ以後佐々木氏は、新聞やテレビを大きく賑わすような、さまざまな刑事事件のデータ復元を手がけていくことになる。

 数え切れない捜査協力の経験を経て、テクノロジーによって法律・法務領域を革新する新しいブルーオーシャン「リーガルテック」の存在を佐々木氏はまた見出していった。そして2012年、リーガルテック株式会社を設立、専門企業として積極的に取り組むことを決意した。

弁護士や会計士が使う難解な専門ソフトを「マニュアルフリー」に変える

 リーガルテックの第一人者である佐々木氏が現在注力しているのが「バーチャルデータルーム (VDR)」だ。VDRとは、クラウド上に開設された機密性の高いデータルームのことで、高度なセキュリティが確保され、M&Aやデューデリジェンス(投資先の価値やリスクなどの調査)、パートナーシップ交渉など、企業間の戦略的取引を行う際に、関連当事者のみが重要機密データにアクセスでき、コンテンツの安全な共有とコラボレーションを実現するサービスだ。

 「デジタル化が進み、機密データもデジタル化している。VDRはもともと海外でスタートしたビジネスですが、海外サービスということで、国内のユーザーにとって使い勝手の悪いサービスが多かったのです(佐々木氏)」

 佐々木氏自身、知人の弁護士から、海外のVDRサービスがいかに使いにくいかという生々しい声を受け取っていたという。

 そこでリーガルテック社は、「ITスキルがなくても使えること」などいくつかの開発目標を定め、「AOSデータルーム」を開発する。

 AOSデータルームは、「パソコンでメールを送れる人でさえあれば、マニュアルを一切読まなくてもその日から使える」恐るべきユーザビリティを持ち、ユーザーからの要望に応え迅速に機能追加していくサポート体制を備える。加えて「従来サービスの7分の1」という決定的価格性能が支持され、リリースしてすぐに、国内を代表する大企業、法律・会計事務所が導入を決定した。

 年齢や職種を問わず使える容易さ、日々の機能追加、そして中小企業や個人事業主でも手が出る価格によって、「AOSデータルーム」は当初予定していたM&A以外の利用者を引きつけていく。

 「たとえば、目前に近づいている国際的スポーツイベントの運営委員会のような、外部への発注の際、極めて高い透明性の確保と説明責任が求められるような組織に利用されている他、昨今の働き方改革で、テレワークの社員が安全に社内の機密情報にアクセスする用途で導入する企業も増えています(佐々木氏)」

 本来の VDR の想定用途以外にも、ユースケースの裾野は広がっている。

マーケットリーダーが考える「成功の 2 つのポイント」

 大型家電量販店では、ソフトウェア売場に「データ復元」という棚が存在する店も多い。もともとは佐々木氏が切り開いたデータ復元市場だ。いまや累計で 100 億円以上を売り上げる規模にまで育てあげた。

 「無からマーケットを新たに作り、そこで自分自身がマーケットリーダーになれるかどうかが決定的に重要(佐々木氏)」

 そして、成長を続けるために必要なポイントとして「継続的な製品の改善」「スピード重視の組織運営」の 2 つを挙げた。技術者出身の経営者だが、技術至上ではない点が興味深い。

 「どんなに優れたテクノロジーがあったとしても、市場やお客様から遠いところにいては顧客視点の製品やサービスを作ることはできません。前職のエンジニア時代は、開発部門は主要駅からバスに乗った先の、まるで“山ごもり”するような場所にありました。閑静で開発環境としては恵まれていたかもしれませんが、お客様との距離が遠すぎて、お客様が何を求めているか、当時は分かりませんでした(佐々木氏)」

 お客様の近くで、顧客視点でスピーディに製品を改善、市場にリリースしていく。組織のサイズも「最初のスタートは 7 名くらいで、最大でも数十人規模くらいでないと、スピードを欠いてしまう」と佐々木氏は話した。

 佐々木氏は「スピード重視の組織運営」のために、スタッフ間のコミュニケーションをとりわけ大事にしている。たとえば、各ビジネス部門はカンパニー制を敷き、営業のトップであるカンパニー長と、技術のトップである CTO を設置しているが、「それぞれにコーポレートクレジットカードを渡して、これでご飯でも食べながら親睦を図るよう」伝えているそうだ。社長はともかく、CTO にも渡すところは、技術者出身の佐々木氏らしい采配だ。

 また、社員の満足度向上も気にかけている。「今年のゴールデンウィークの 10 連休は、証拠調査の仕事が多忙で、平日は出勤だったが、その日は私が毎日、出社したスタッフ全員分のお弁当を購入し、差し入れた」ということだ。その差し入れる弁当にも秘訣があった。社長が単に高級品を差し入れても芸がない。そこで佐々木氏は、決して高価ではないものの「ちょっとだけ豪華で」「特別感のある」弁当を差し入れたという。

ユーザーから学びさらに製品が洗練されていくサイクル

 こうした社員への心遣いは、佐々木氏のソフトウェアづくりにも反映されている。たとえば、AOSデータルームを使って、CAD の大容量データをさまざまな現場、プロジェクトで外部とやり取りする建設会社などから、「CAD で作成した図面データをスマホとタブレットで見られるようにして欲しい」という要望があった。次回のバージョンアップ時には専用 CAD ビューワーが付加された。

 また、M&A 案件用のユーザーから好評だった AOSデータルームの機能は、「アクセス履歴」だったという。これは、誰が、いつ、どのファイルにアクセスし、どのくらいの時間、ファイルのどのページを何度読んだかという詳細がわかるアクセスログで、このログを見ることで「なぜこの会社を買おうとしているのか、どこに価値を感じているかという、相手企業の “ M&Aの本当の目的 ” や “ 本気度 ” が見えてくることがある」という。

 「AOSデータルーム」のとあるユーザーは、ログを眺めて M&A の目的が「節税対策」にあると推定、その仮説に基づいたオファーや交渉を実施、有利にディールを成功させたという。次のバージョンアップ時に、アクセスログを分析するドリルダウン機能がさらに付加されたことはいうまでもない。

 これまでの歩みを振り返り、佐々木氏は「お客様に教えられることばかりだ」と話す。ユーザーに教えられながら製品、サービスを開発して市場を作り、どんどん機能追加がなされ、製品やサービスが改良されていく。そうした好循環に AOSデータルームも入りつつあると佐々木氏は自信をにじませる。

これ以上日本の競争力が失われないために

 本年 5 月、時代は令和に変わった。平成の 30 年は多く、「失われた 30 年」と振りかえられることが多い。

 佐々木氏は「何が失われたかを冷静に考える必要がある」と述べ、「一言でいえば、日本の大切な知的財産や個人情報などの機密情報が流出した 30 年だった」と看破する。それが国際競争力を失わせることにつながったのだと。

 “ 情報を奪った者勝ち ” の状況の中で、セキュリティ意識を高めないと、大切な情報は守れない。意識改革をしないと日本企業は復活できない――。そう警鐘を鳴らす佐々木社長の、ビジネスを通じた熱い戦いはこれからも続く。

「マーケットを新たに作り、そこで自分自身がマーケットリーダーになることが重要」リーガルテック株式会社 代表取締役社長の佐々木 隆仁 氏「マーケットを新たに作り、そこで自分自身がマーケットリーダーになることが重要」リーガルテック株式会社 代表取締役社長の佐々木 隆仁 氏 (背景は佐々木氏がリーガルテック市場への決意を新たにするために最近手に入れた、1965年5月に行われたモハメド・アリ vs ソニー・リストン戦でアリが使ったグローブ)

《阿部 欽一》

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