#NoMoreFake 第3回「ファクトチェック」 | ScanNetSecurity
2021.03.07(日)

#NoMoreFake 第3回「ファクトチェック」

>> あらすじと主な登場人物 >> #NoMoreFake 第2回「困る企業たち」

特集 フィクション
大和田紗希 作 / 一田和樹 監修 サイバーミステリ小説「#NoMoreFake」
大和田紗希 作 / 一田和樹 監修 サイバーミステリ小説「#NoMoreFake」 全 1 枚 拡大写真
>> あらすじと主な登場人物
>> #NoMoreFake 第2回「困る企業たち」


「いやー、いつも妹がお世話になってます」

「そんなそんな、急にお呼び立てしてしまって申し訳ありません」

がやがやとした居酒屋で、かしこまった様子の畠山さんと話している、ひときわ明るいサラリーマンは、ほかでもない私の6つ上の兄、影山達夫だ。

「いや、とんでもないですよ。最近は妹とも会う機会が減ってしまって、元気にしてるか気にはなってたんですよ」

「…嘘ばっかり」

口ばかりうまい兄はお調子者で世渡り上手だ。初対面の人とでもすぐに仲良くなれる。よく兄弟なのに、と言われるが私にはこんな上手にへらへらできない。

「何だよお前、久しぶりの連絡でわざわざ会いにきたお兄ちゃんをちょっとは敬いなさいよ」

いつもの調子で軽く私の嫌味を交わしながら名刺を取り出す。

「初めまして。遥の兄の影山達夫と申します」

「あ。ありがとうございます。畠山和幸です」

「はい、頂戴いたします」

「本当に今日は来てくださってありがとうございます」

「いえいえ、かわいい女の子がいるかと思いきや、畠山さんのようなナイスボディな方にお会いできるとは」

「すみません」

すっかり兄のペースに飲み込まれていく畠山さん。

さすが営業の仕事をしているだけあって、居心地の良い雰囲気を作る兄を少し見直した。

「で、どうしてお兄ちゃんだったんですか?」

兄はIT系の企業で働いているとは聞いていたがフェイクニュースとはおそらく何のかかわりもないような企業だ。

「実はお兄さんにご相談がありまして」

「え、結婚?」

「違うよ」

早速ボケをかます兄を一喝する。昔から兄のボケにツッコむのが私の仕事だ。

「達夫さん、『FAKEx』っていうサイトのジャーナリストもされてますよね?」

「フェイクエックス?」

聞いたことのない単語に兄の顔を見ると、少しだけ表情が変わったのが分かった。兄が軽く下唇をかむときは真面目モード突入の時だ。

「何でそれを?」

「実は…2年前に達夫さんが書かれたトラック運転手の自殺の事件、僕の兄なんです」

「え?」

「FAKEx」とは、兄が大学生の時に立ち上げたフェイクニュースをファクトチェックしているサイトで、兄の呼びかけに集まったフリーのジャーナリストが記事を出しているらしい。携帯でサイトを見ると一般的にはあまりまだ知られていないが、すぐに公式サイトが出てきて、テレビでも有名なコメンテーターのファクトチェックなどいろいろと突っ込んだ内容をやっている。

兄が特集したのは、2年前に起こったトラック運転手の自殺の事件だ。サイトの記事には当時の様子が詳しく書かれていた。トラックの相次ぐ交通事故で運送業者に冷ややかな目が向けられていた時期があったことは私でも知っているほど有名だった。幼い少女と母親の死によりさらに批判が強まり細かな言動でもすぐに表に取りただされていた。畠山さんの兄、畠山康則さんに白羽の矢が立っていたことは知らなかったけれど…。

「僕の兄は、平凡で人当りも良くまじめなサラリーマンでした。僕が小学生の時に両親が交通事故で亡くなったこともあって、年の離れた兄が大学を辞めて生活するために働いてくれてたんです。そんな兄が、俺も就職して手がかからなくなって、仕事でも昇進して結婚も決まって…やっと落ち着いた幸せな生活ができる、そう思った矢先の事件でした」

ことの発端は、匿名のトラック運転手が飲酒をして運転をする動画をあげたことだった。世間からバカッターと呼ばれる類のそのツイートは瞬く間に1万、2万と拡散されていった。もちろん畠山さんの兄は無関係だった。しかし、トラックに似たキーホルダーがついているという理由で畠山さんの兄が特定され、個人情報がばらまかれたのだ。

「SNSだけでなく、テレビでも報道されたことによってさらに拡散されて、両親の事故の復讐を企んでいるとか、ありもしないデマまで流れて…本物の犯人が捕まった頃には仕事も婚約者も失って、生きる気力もなくなってしまっていました」

「でも、本物の犯人が捕まったからお兄さんの無実は証明されたんですよね?」

「もちろん。でも、もうすでにそんな事件のことなんて誰も気にしていなくて、報道で言及していたコメンテーターも軽く謝罪するだけ、記事を拡散した人たちは削除して終わり。結局は誰も事実なんて知ろうとしてなかったんだ」

「…ひどい」

「でも唯一、事件が終わってからも事実を追ってくれていたサイトが遥ちゃんのお兄さんのサイトだったんだ」

畠山さんが兄を見ると、兄は複雑そうに少し笑いかけ口を開く。

「最初に見たのは本当に小さな記事だったんだ。畠山さんのお兄さんの自殺について書かれた記事を読んで、今まで感じたことのない怒りがこみあげてきて。結局は記事を作った人も、それを拡散した人も、便乗して正義感たっぷりに批判した人もみんな同罪で。それをあいまいにして…。なんでこんなことがまかり通るんだろうって不思議でしょうがなくて」

当時を思い出して、眉間にしわをよせる兄。

「でも、僕は、達夫さんの文面から、少し心が救われました。ちゃんと事実を知ろうとしてくれる人がいるって。…あの時はみんなが敵に見えていたので」

「でもどうして僕だと? FAKEx の記事は、個人の被害を防ぐためにみんな匿名でやってるのに」

>> #NoMoreFake 第4回「ハッシュタグ ノーモアフェイク」

大和田紗希 作 / 一田和樹 監修 サイバーミステリ小説「#NoMoreFake」

《大和田 紗希》

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