日本の IT はアウトソーシングを中心に発展してきた。しかし変化の速いビジネス環境の中で、このモデルはコストと対応力の両面で限界を露呈しつつある。多くの企業がインソーシング(内製化)へと軸足を移し始めたがその道のりは平坦ではない。
ガートナー ディレクター, アナリストの横山 龍児 氏は 2026 年 6 月、東京で開催されたガートナー アプリケーション・イノベーション & ビジネス・ソリューション サミット 2026 で『変化の時代を勝ち抜くための内製化戦略』と題して講演し、内製化を頓挫させずに前進させるための実践的なステップを解説した。
● 内製化のゴールは「ソースコードを持つこと」ではない
横山氏はまず、内製化のゴールについて聴講者に問いかけた。「自社にソースコードがあっても、それは初めの第一歩に過ぎない」と同氏は指摘する。内製化の真のゴールは、IT がビジネスに寄り添い、市場の変化にシンクロしながら進化し続ける組織への変革そのものだという。
トランプ関税の発動による輸出業への打撃、株価の乱高下、貿易戦争による原油価格の不透明化など、横山氏はこの 1 年で起きた変化を例に挙げ、あらゆるビジネスアクションが今やシステムを介して行われる以上、IT のスピード対応こそが競争優位性の核になると強調した。
従来型のプロセスがなぜ通用しないのか。横山氏によれば、企業によっては「業務部門からの変更依頼」「要件調整」「 RFP 策定」「社内承認」「発注」という 5 つのステップを回すだけで数ヶ月、長ければ 1 年以上を費やしてしまうという。「外注をなくせばこのプロセスは削減されるが、社内の“スタンプラリー”が残っている限り開発スピードは変わらない」と同氏は述べ、ビジネスと IT を最短距離で結ぶ、全く新しい意思決定の方法が必要だとした。
● 内製化に立ちはだかる「 3 つの壁」
内製化に着手しようとすると、多くの企業は 3 つの壁にぶつかると横山氏は指摘する。
1 つ目は「人材の壁」だ。現在の IT 人材は既存システムの保守と外注管理に追われ、新しいことに挑戦する時間的余裕がない。2 つ目は「知見の壁」。内製化に関わるプロセスの回し方や、品質担保の方法がそもそも分からないという課題だ。3 つ目は「スキルの壁」。長年にわたり外注管理に注力してきた結果、「自分で作る」という意思決定そのものができなくなっているという。
● 「決める力」の欠落が日本企業最大の弱点
内製化の第一歩は現状分析、すなわち自社の内製能力を正しく把握することだと横山氏は語る。同氏によれば、内製能力とはただ「コードを書ける」ということだけではない。「内製能力とは、決める力と作る力からなる」とし、日本企業に圧倒的に不足しているのは、現行アーキテクチャが今のビジネスに最適か、将来の技術的負債にならないかを判断する「決める力」だと指摘した。「これは長年の外注管理を最適化してきた結果であり、ある意味やむを得ない」と同氏は述べる。
現状把握の手段として横山氏が推奨するのがスキルマップの作成だ。自社のどの領域に能力があり、どこが欠落しているかを可視化する。「作って終わりではなく、今後どう育成し、どう外部知見を入れるかを戦略的に決める指標として使ってほしい」と同氏は釘を刺す。
深刻なエンジニア不足の中、高度な IT スキルを持つ人材の外部採用は容易ではない。横山氏はここで発想の転換を促す。「プログラミングなどの高度なスキルではなく、各業務をよく知るドメインエキスパートが大勢いるはずだ。彼らを開発の担い手として活用できる」。

