工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン3 「エリカとマギー」 第6回「工藤ちゃん」 | ScanNetSecurity
2026.09.25(金)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン3 「エリカとマギー」 第6回「工藤ちゃん」

未だにオレを「ちゃん」づけで呼ぶ生きた化石はこいつしかいない。大手広告代理店の営業マンにして、オレのエージェントである沢田だ。頭の中は、いつもアロハな無責任男。

特集 フィクション
>>第 1 回から読む

第2部

その朝、オレはご機嫌斜めだった。なぜかというと、朝立ちしていたからだ。いや違う。悪いのは朝立ちじゃない。本来なら、オレの横にいるべき女がいないことだ。

女がいれば、せっかくの立っているもので、つんつんして、「ああん、なにバカなことしてんの」なんて、いちゃいちゃができるのだ。それなのに、いない。ひとりだと、単にトイレが不便なだけでなにもいいことがない。そこにもってきて、あの野郎からの電話だ。

「工藤ちゃん!」

とうの昔に日本のブーミング・デイズは過ぎ、バブルは崩壊して過去の遺産だ。未だにオレを「ちゃん」づけで呼ぶ生きた化石はこいつしかいない。大手広告代理店の営業マンにして、オレのエージェントである沢田だ。頭の中は、いつもアロハな無責任男。

こいつのクライアントには、間抜けなシステムを開発したり、運用したり、クラッキングされたり、個人情報盗まれたり、Web改ざんされたりしている企業が山ほどある。

でもって、なにをどう考えるんだか理解に苦しむんだが、この間抜けなクライアントは、広告代理店に相談するわけだ。すると広告代理店は無責任と適当が事業の本質なので、ろくに考えもせずに「おまかせください。大丈夫です」と口からでまかせを言って、できもしない案件を引き受ける。正しい日本語で言うなら、「安請け合い」というヤツだ。あるいはカラ手形ともいう。

もちろん沢田の会社はシステムのことなんか知らないから、オレに相談が来る。つまり、オレは、サイバーセキュリティコンサルタントだ。

最先端の仕事のように聞こえるけど、実際にやっているのは、企業などの、表沙汰にできないトラブルを処理する泥臭い地味な仕事だ。どぶさらいに近いと思う。

しかし、脳みそが腐ってるとしか思えない沢田も最近は、オレのことを「さん」づけて呼んでいたはずだ。なんの因果で先祖返りしたんだろう。先祖の墓でも暴いたんだろうか?

「工藤さん、だろ。さんづけで呼んでくれよ」

「あーあー、すいません。いい話なもんで、ついつい昔のくせで、ちゃんづけしてしまいました。工藤先生!」

この調子のよさといい加減さが沢田というか、広告代理店の持ち味だ。

「エリカさんからご相談が来たんですよ。絶対内緒ですよ!」

《一田和樹》

特集

PageTop

アクセスランキング

  1. ロート製薬のシステムに不正アクセス

    ロート製薬のシステムに不正アクセス

  2. 「西武 旅するレストラン 『52 席の至福』」予約サイトで予約関連情報の一部が漏えい

    「西武 旅するレストラン 『52 席の至福』」予約サイトで予約関連情報の一部が漏えい

  3. 関西学院大学で学生の個人情報が閲覧可能な状態に、非常勤講師が外部SNSサービス「hyocom」を利用

    関西学院大学で学生の個人情報が閲覧可能な状態に、非常勤講師が外部SNSサービス「hyocom」を利用

  4. 「paperlogic」に不正アクセス、現時点で情報の閲覧や外部への持ち出しが行われた痕跡は見つからず

    「paperlogic」に不正アクセス、現時点で情報の閲覧や外部への持ち出しが行われた痕跡は見つからず

  5. スマートフォンアプリ「東北電力 よりそうeねっと」にハードコードされた暗号鍵使用の脆弱性

    スマートフォンアプリ「東北電力 よりそうeねっと」にハードコードされた暗号鍵使用の脆弱性

ランキングをもっと見る
PageTop