セキュリティジャーナリスト吉澤亨史 バイリンガルライターになるまで 第1回「パロアルトネットワークス染谷征良氏の人生を変えた一言」 | ScanNetSecurity
2026.01.12(月)

セキュリティジャーナリスト吉澤亨史 バイリンガルライターになるまで 第1回「パロアルトネットワークス染谷征良氏の人生を変えた一言」

私は学校卒業後、自動車整備士として、整備工場やガソリンスタンドの所長などの仕事を経て、雑誌で記事を書くようになり、1996 年にフリーランスライターとして独立しました。中学高校と英語の成績は中の上といったところで、英検 3 級に落ちるレベルでした。

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オリビア・ニュートン・ジョンさんと染谷氏
オリビア・ニュートン・ジョンさんと染谷氏 全 3 枚 拡大写真
 私はかれこれ 20 年近く、ライターとしてサイバーセキュリティに関わっていますが、今でもセキュリティ情報の発信元は海外がほとんどです。テキスト情報であれば、Google翻訳もありますし何とか読むことができます。しかし、聞くことと話すことはハードルが高くなり、相応の英語力が求められます。

 これまでにデロイトトーマツにスペイン、エフセキュアにフィンランドへ記者として招かれましたが、やはり英語力の低さで苦労しました。特にフィンランドは通訳がいなかったので十分なコミュニケーションが取れず、そこに「いないこと」にされてしまう経験もして、悔しい思いもしました。

●英検 3 級不合格レベル

 私は学校卒業後、自動車整備士として、整備工場やガソリンスタンドの所長などの仕事を経て、当時使っていた Mac 好きが高じて「MacUSER」という雑誌で記事を書くようになり、1996 年にフリーランスライターとして独立しました。中学高校と英語の成績は中の上といったところで、英検 3 級に落ちるレベルでした。

 フィンランドでのいないことにされた経験から「単独で海外取材の依頼が来ても対応できるようになりたい」と強く思うようになる中で、英語に触れる機会を増やしたり、取材の際のついでに英語をどう克服したかをうかがったりするようになりました。そんなときに「それを連載にしましょう」と ScanNetSecurity 編集部から提案をいただきました。毎回、セキュリティの方々に英語をマスターした方法を聞くというものです。同時に私自身も勉強を進め、その指標として TOEIC を受験し、その点数を公開していくという内容です。

 第 1 回目の今回は、パロアルトネットワークスのサイバーセキュリティ ストラテジストである染谷征良氏にお話をうかがいました。染谷さんがトレンドマイクロに在籍していた頃「Trend Micro CTF」で司会を務め、すべて英語で進行する姿は格好良く強く印象に残りました。

 また染谷さんは「朝から晩まで英語漬け ビジネスパーソンの英会話ハンドブック」や「ビジネス英会話『1秒』レッスン」といった書籍も執筆しています。染谷さんは、英語を学び、仕事に生かしていくにあたり、多くの「戦い」があったといいます。


●きっかけは「 ECCジュニア」の看板

 染谷さんの英語のルーツは、幼少期に家のクッションにあった筆記体に興味を持ったことをかすかに覚えているといいます。それがきっかけで、いとこがよく聴いていたというオリビア・ニュートン・ジョンの歌の意味を知りたいと思ったそうです。そして小学校 2 年生のとき、通学路の電信柱に貼ってあった「 ECC ジュニアクラス開校、無料レッスン」のポスターを見た瞬間になぜか浮かんだ「これだ!」という閃きが直接のきっかけでした。

 英語を習いたいと母親に相談すると、父親が許可するなら行っていいという。そこで父親に相談すると、「日本語もまともに話せないお前が何が英語だ」と言われました。「父は僕に野球をやらせたかったのでしょう。僕は野球を見るのは大好きで、ジャイアンツの友の会にも入っていたし、兄の少年野球の試合も毎週末、見に行っていました。でも、自分で野球をするのは嫌だったんです」と染谷さん。これが最初の「戦い」だったわけです。

 それでも「野球をするなら英語教室に行っていい」と言われ、両方することになりました。ECC ジュニアは小学校 2 年生の終わり頃から体験レッスンを受け、その後は生徒として習い始めました。先生が外国人で、きちんとした発音で教えてもらえたし「違う言語ができることが楽しくてしょうがなかった」と言います。一方、少年野球はハード過ぎて大変だったと言います。

 小学校 2 年生から本場の講師に英語を習ったことで、特に発音に磨きがかかっていました。それが第二の戦いを引き起こします。まず、中学の「ジャパニーズ英語の発音の先生」に目を付けられたといいます。そして、ずっと 100 点満点だった英語のテストに「×」がつきました。その理由が「習ってない単語を使った」だったのです。「納得がいかなくて、めちゃくちゃ食ってかかってバトルしましたね。当時から許せないものは許せないという思いがありました」と、戦いを振り返りました。

 ECC ジュニアは、中学1年生のときに「学習塾に行け」と親に言われてやめ、以降は一般的な学校英語の勉強をしていました。それでも高校の英語の授業では、その発音の良さから先生に「何だお前は」と言われたといいます。ちなみに、その先生が後に染谷さんと一緒に本を書いた清水建二さんなのです。

●バイトからソフォスの常駐スタッフに

 大学に入ると、現状を打破したいという思いから NHK の「やさしいビジネス英語」で勉強をはじめました。録音もしましたが、なるべく 22 時 40 分には家にいてリアルタイムに受講するよう心がけたといいます。そして大学 4 年生の 11 月、就職先として内定していた CSE 社から、英セキュリティ企業ソフォス社の仕事をバイトでやって欲しいという話が来ました。当時、CSE では新卒を 120 名ほど雇っていましたが、履歴書に箔をつけるために TOEIC の点数を書く流れがあったので、当時の得点(約 760 点)を書いたところ、話が来たといいます。

 CSE では当時、ソフォスの製品を日本で販売するというプロジェクトが立ち上がっていて、当然ながら英語が必要になるのですが、できる人がいなかったそうです。そのため染谷さんは「バイトでいいから」と誘われたそうです。本当はプログラマーを目指していたのに、他の新卒者が座学でプログラミングを教わっているのを横目に、ソフォスから届く英語の FAX を日本語に訳す日々が始まったのです。

 徐々に仕事が忙しくなってきて、ソフォス製品取り扱い開始のお披露目の準備が近づく頃には、毎日終電ギリギリまで働きました。「バイトなのに」と染谷さんはこぼします。ビジネス英語の放送に間に合わなくなる日も多くなり、新卒 1 年目の 7 月頃までは深夜 2 時から録音を聞く状況に。しかも同時に韓国語の勉強も始めたので、睡眠時間は 2 時間ほどになってしまったといいます。ただ、韓国語は動機が不純だったこともあり、3 ~ 4 カ月でやめたといいます。

 「韓国語学習の動機はね、卒業旅行でアメリカに行ったとき、飛行機が大韓航空だったんですよね。その機内アナウンスが英語と韓国語だったんですが、CA さんの韓国語が可愛らしくて」と染谷さん。韓国人 CA とお近づきになりたかったんですかね。そしていよいよ、常駐スタッフとしてイギリスのソフォス本社に行く話が来ました。

 CSE の創業者である小島氏のサポートにより、ソフォス製品の日本語化の許可を取り付けたものの、ソフォスには日本人がいない。募集しても来ないだろうから日本から人員を送れと言われました。その条件が「プログラミング言語が多少なりとも解ること」「英語の読み書き、会話ができること」「異文化の中でもコミュニケーションがとれること」だっため、染谷さんに白羽の矢が立ったのです。染谷さんは富士通ラーニングメディアでC言語を勉強して、同じチームの課長と二人でソフォスに行きました。

 「まだ売り始めたばかりで実績もない日本の代理店が 2 人も常駐させることは、おそらく現場では『こいつら何ができるの?』と思われていると考え、だから自分たちで仕事を見つけて、何でもやった。イギリスで得た知見や情報を日本にフィードバックしたりしました。そうすればソフォスでも評価してもらえるし、CSE もイギリスに常駐させてよかったと考えてくれる。自分の存在意義はその時からすごく意識していましたね」と染谷さん。

 本当は、イギリスにいるのは 2 ~ 3 カ月、長くても半年はいないという想定でした。しかし、製品の日本語化の過程ではトラブルも発生します。滞在期間はしだいに長くなっていきました。CSE 側もベンダに常駐させることはビジネス上のメリットもあるので、なるべく継続したい意向でした。染谷さんも、課長が日本に帰っても別の誰かが常駐できるようにしたかったといいます。

●ソフォスへの就職で、またも「戦い」勃発

 当時、染谷さんは知らなかったことですが、CSE の社長はソフォスに対してひとつだけ、日本から派遣したスタッフを決してヘッドハントしないことを条件にしていました。一方で染谷さんは、この環境から離れたくなかったといいます。それは、ソフォスそしてイギリスがすごく気に入ったから。周囲の人もすごくいい人達だったし、いろいろ学べているという実感があったからです。

 そこで、ちょうどビザが切れる頃に、ソフォスの創業者に「この会社には学べることがたくさんあります。なんでもやるから仕事をください( I will do anything. There's so much to learn in this company. )」と直談判しました。この一言が染谷さんの人生を変えることになります。

 いったん日本に帰国し、イギリスのビザが下りた時点で CSE を辞めました。その後、どうするのか聞かれて「ソフォスに行く」と話したら、大問題になりました。伝言ゲームの結果、「ソフォスが染谷さんをヘッドハントした」という誤解が社内に広がり、2 社の関係が決裂しかねない問題に発展しかけたのです。ただし、社長に直接話したところ、5分で誤解は解け、わがままを許してもらえたといいます。そして、今度はソフォスの社員としてイギリスに戻ったのです。

●英語の面で、ソフォスで苦労したこと

 よく、アメリカ英語とイギリス英語の違いを耳にしますが、そのあたりの苦労はあったのでしょうか。染谷さんに聞いてみると、イギリス英語はアメリカ英語と同じ表現でもバリエーションが多く、ニュアンスも異なる点をまず挙げました。実際に、「この場面でその表現は間違っている」「この文脈でその表現は合っていない」と言われることもあったと言います。

 やはり言葉を選ぶときに、その意味はもちろん背景にある文化や歴史を理解した上で使うことが大事。そのために英英辞典は多用し、その表現は日本語ではどうなるのかを英和辞典で確認していたといいます。それに、単語のバリエーションが少ないと尊敬されない、人間的に深みがない人と思われてしまうとのことです。染谷さんは自分の存在意義を強く意識していたこともあり、積極的に発言したそうですが、やはり積極性がないと「いないことにされてしまう」といいます。あ、フィンランドの苦い記憶が。

 それと発音。ECC ジュニアの先生はテキサス訛りのアメリカ英語だったので、イギリスでは「なんだその発音は」と言われたそうです。日本で学んだアメリ英語の発音では、イギリスでは通じない。「ごめん、なに言ってるの君」と言われることもあったといいます。逆に、イギリス英語になじんでからカナダに出張したときには、今度はイギリス英語の言い回しが通じない。言葉の背景で言えば、アメリカ英語に“ play hardball ”という「相手に強く当たる」という言葉があるのですが、これはベースボール文化から生まれた言葉なので、イギリスでは通じないのです。

●イギリス英語を使う「メリット」

 なお、染谷さんはイギリスから帰っても、トレンドマイクロに転職しても、基本的にイギリス英語を貫いているといいます。その理由を聞くと「海外の女性はイギリス人の発音を好むと聞いて、実際にそのような経験もしたからです」と、冗談交じりに教えてくれました。たとえば染谷さんは、英語に関心を抱くきっかけのひとつとなった歌手のオリビア・ニュートン・ジョンと会う機会があったそうですが、事前に「会話は NG 」と言われていたのにも関わらずオリビア本人が話しかけてきて、かなりの会話ができたといいます。

 学んだといえば、サイバーセキュリティにも馴染んでいなかったので、文献を読み漁っていたそうです。たとえば、同じウイルスの情報について、それぞれベンダがどのような言葉で解説しているか、そういう観点でも読み漁ったそうです。もともと読書が嫌いだったので、とてもつらい作業だったといいます。

●「Virus」と「Malware」、「Breach」と「Compromise」の使い分け

 セキュリティに関連する英語で苦労した点を尋ねると、単語を正しく理解して使い分けることを身につけるのが大変だったといいます。たとえば「 Computer viruses 」(コンピュータウイルス)と「 Malware 」(マルウェア)。ウイルスは生物学上のウイルスと同じで、伝染、増殖して増えていくものを指しますが、マルウェアは「 Malicious software 」から来ている言葉なので、悪意あるコンピュータプログラムすべてを意味します。

 このため、ウイルスの場合は「 Disinfect 」という生物学上の言葉を使用することがあります。「 Delete 」と混同しがちな言葉ですが、たとえば「 We disinfected the file. 」を訳すと「このファイルを駆除した」となりますが、生物学で使われる「 infect 」(感染する)に「 dis 」(取り除く、離す)がついているので、「感染を取り除く」や「感染しているものを元に戻す」という意味になります。「 delete 」は単純に「削除」なので、意味が違うわけです。

 最近では「 Data breach 」という言葉が一般的になったことで、「 breach 」を「漏えい」の意味と捉えてしまっている人が多いと指摘します。「 breach 」に漏えいという意味はなく、「何かが破られる」「破られた結果として生じるギャップ」のことを指します。「 Breach detection technology 」を「情報漏えい検出技術」と訳したケースがありましたが、これは「企業のネットワークが侵害されていないかどうかを検出する技術」という意味になります。

 「 breach 」に似た言葉に「 compromise 」があります。ビジネスメール詐欺( BEC:Business Email Compromise )などに使われている言葉ですが、「 Their corporate network was compromised. 」という文章に「情報漏えいした」という意味はありません。あくまで「侵害された事実があること」のみの意味になります。日本語の会話ではニュアンスの違いはあまり問題になりませんが、海外ではそれが指摘されたり問題になることもあるので、注意が必要です。染谷さんは言葉の意味やニュアンス、背景なども理解することに努めたといいます。

●筆者の生涯初 TOEIC 結果

 染谷さんはこの他にも、英語を勉強したことによって得したことなどもたくさん話してくれました。「英語をやっていなければ、きっと全く違った人生を歩んでいたと思います」との言葉通り、英語を軸に、常に目標を持って切磋琢磨したことがひしひしと伝わってきました。特に「今の自分はイギリスで形成されたと思っていますので、イギリス英語を話すことが自分のアイデンティティです」という言葉が印象に残りました。

 さて、今回の私の TOEIC チャレンジですが、新型コロナウイルス感染症の影響で会場での受験はしばらく停止となっていました。6 月にオンライン模試が実施されたのでそれを受験し、結果は 490 ~ 495 でした(自己採点形式)。

筆者 吉澤亨史 TOEIC 試験結果( 2020 年 6 月オンライン模試)

 その後、9 月から再開されたので、10 月 25 日に初の現地受験をしてきました。その結果は 450 点。調べてみると「高校在学中」レベルだそうで、まだまだ努力が必要です。次回は 2021 年 1 月に受験します。その結果は次回連載で報告したいと思います。

筆者 吉澤亨史 TOEIC 試験結果( 2020 年 10 月)

《吉澤 亨史( Kouji Yoshizawa )》

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